三重県四日市市の中央通りは、近鉄四日市駅前から市街地中心部を経て四日市港へと至る重要な都市軸であり、かつてから市民生活や商業活動を支える幹線道路として機能してきました。しかし、自動車交通量の増加や歩行者空間の不足により、安全性や快適性の面で課題が顕在化していました。そこで、中央通り再編事業では①「まちなかの回遊性向上による賑わいの展開」②「都市の魅力・暮らしの質向上による、東海地方をリードする、産業・交流拠点都市の実現」③「広域連携強化による交流人口の増加」④「グリーンインフラの導入や防災機能の向上による、環境・防災先進都市の実現」という4つの目標を掲げ、道路の再編と公共空間の再構築を進めています。
この事業によって、駅前から港までを結ぶ全長約1.6kmの空間が、単なる移動のための道路から「歩くこと自体が楽しい都市回廊」へと生まれ変わります。通り沿いの商店街や文化施設との連携も視野に入れ、観光や買い物に訪れる人々の回遊性を高め、経済効果の波及を狙っています。
中央通り再編事業の概要
- 事業の全体像
中央通り再編事業と近鉄四日市駅バスターミナル整備の一体的推進。
2025年12月完成予定の円形デッキによる都市空間の刷新。 - 事業の目的
歩行者中心の安全で快適な移動環境の確保。
駅から港へつながる都市軸の形成と回遊性向上。 - デッキのデザインと特徴
二重の円構造による屋根と床のずれの表現。
憩い・待ち合わせ・眺望を兼ね備えた空間。 - 地域性の表現
日永うちわをモチーフにした柱の分岐構造。
四日市の産業と文化を象徴する都市デザイン。 - バスターミナルの整備
分散していたバス停を集約した13バースの設置。
待合空間と案内機能を備えた交通結節拠点。 - まちなかの賑わい創出
東海道歩行者広場など「みんなのニワ」の整備。
市民活動とイベントを育む賑わいの拠点。 - 将来展望
防災拠点機能と次世代モビリティへの対応。
持続可能で先進的な都市拠点への進化。

駅前広場に新設される橋長113.1m、幅員3.5m、直径約40mの「円形デッキ」は、この再編事業の象徴ともいえる存在です。設計コンセプトは「まちを眺める上空のニワ」。従来の駅前デッキが単なる通行施設として利用されてきたのに対し、このデッキは“滞在する場所”としての機能を重視しています。
デザインは二重の円を基調とし、床と屋根をずらすことで独特の立体感と奥行きを演出。これにより、開放感を損なうことなく雨天時でも快適に歩行できる空間を確保します。さらにデッキ上には緑化が施され、都市の中心部にいながら自然を感じられる空間が広がります。市民が気軽に腰を下ろして談笑できるベンチスペースや、イベント時に活用可能な広場的機能も組み込まれており、まさに「都市の空中庭園」としての役割を担います。

円形デッキのデザインは、単なるモダンな建築表現ではなく、「四日市らしさ」を随所に盛り込んでいる点が特徴です。特に注目すべきは、屋根を支える柱に採用される立体的な分岐構造。これは伝統工芸「日永うちわ」に見られる美しい骨組みをモチーフにしており、軽やかで繊細な表情を生み出します。
また、床材や植栽の選定にも地域性を反映。四日市市が誇る産業や自然との調和を意識し、訪れる人々に「ここでしか味わえない空間体験」を提供します。シンプルで洗練された現代的なデザインと、地域文化を尊重する意匠を融合させることで、市民にとって愛着の持てるランドマークとして長く利用されることを目指しています。


駅周辺には従来、東口・西口・南口とバス停が分散しており、乗り場の場所が分かりにくい、乗り換えに時間がかかるといった課題がありました。今回の事業では、これらのバス停を集約し、駅前に新たなバスターミナルを設置します。
新ターミナルには13バースが整備され、地域内外を結ぶ路線バスや高速バスが効率的に発着できるようになります。さらに、案内サインや待合スペースが充実し、乗客が迷わず利用できる動線が確保されます。これにより、近鉄四日市駅は北勢地域全体の交通結節点としての機能を一層強化し、都市間交通の拠点としての役割を果たすことになります。


「ニワミチよっかいち」の理念に基づき、駅前や中央通り沿いには市民が集える広場や緑地が複数整備されます。東海道歩行者広場や商工会議所前広場などは、イベントやパフォーマンスの会場として活用可能で、日常的には休憩や待ち合わせの場として機能します。
これらの「みんなのニワ」が点在することで、駅前から市街地へと人々が自然に歩きたくなる仕組みが形成されます。商業施設や飲食店とも連動し、観光客や買い物客がまちなかを回遊するきっかけを増やすことができます。結果として、中心市街地のにぎわいが創出され、地域経済の活性化につながることが期待されます。

新しい駅前広場とバスターミナルでは、利用者の安全性と快適性を最優先に設計されています。特に重視されているのが「人とバスの分離」。ペデストリアンデッキによって歩行者動線を立体的に確保することで、バスとの交錯を避け、安全な移動環境を実現します。


また、デッキとバスターミナルをつなぐ動線にはエレベーターやエスカレーターを設置し、車いすやベビーカー利用者、高齢者でも安心して移動できるバリアフリー空間を提供。待合室には冷暖房やトイレ、授乳室なども整備され、利用者が長時間でも快適に過ごせる環境が整います。都市の玄関口として、訪れるすべての人に優しいデザインが施されている点が大きな特徴です。


駅前空間には、防災拠点としての機能も組み込まれています。一時避難場所や災害時情報提供施設、救援物資の備蓄スペースが整備され、災害発生時には帰宅困難者の受け入れや地域防災の拠点として機能します。都市の中心に防災機能を持たせることで、安心・安全な街づくりが進められています。
さらに、将来の交通変化にも柔軟に対応できる設計がなされています。次世代モビリティ、例えば自動運転バスやシェアサイクル、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)との連携が見込まれており、持続可能で環境負荷の少ない交通体系を実現する基盤となります。

事業は令和4年度から西側の先行整備が始まり、段階的に工事が進められています。現在は駅前の基盤整備と円形デッキの工事が本格化しており、令和7年(2025年)12月には円形デッキが完成予定です。その後もバスターミナルや周辺の歩行者広場の整備が順次進められ、駅前全体の完成度が高められていきます。
完成後には、四日市駅前は交通拠点としての機能を飛躍的に強化すると同時に、市民が集まり憩える「顔」としての役割を担うことになります。緑と人に優しい空間、防災対応力、そして未来志向の交通システムを兼ね備えたこのプロジェクトは、四日市市が次世代に向けて掲げる「持続可能な都市像」を具体的に体現するものといえるでしょう。
最終更新日:2025年8月17日

