横浜市中区・南区・磯子区にまたがる「根岸住宅地区」は、昭和22年に米軍に接収されて以来、長い年月にわたり市域のまちづくりに大きな制約を与えてきたエリアです。市民にとっては「閉ざされた土地」として存在し続け、都市の連続性が途絶える要因ともなってきました。平成16年には日米合同委員会で返還方針が合意され、さらに令和元年には原状回復作業のための共同使用が認められるなど、返還実現に向けた段階的な動きが進んでいます。
返還後の土地は、約50haという広大な面積を誇り、横浜市内では極めて希少性の高い都市資源となります。その活用にあたっては、都市課題の解決や地域の魅力向上に直結する可能性を秘めており、市では環境に配慮した基盤整備を行う「(仮称)新根岸地区土地区画整理事業」を計画しています。令和9年度の都市計画決定、令和11年度の工事着手を目標としており、横浜の都市構造を大きく変えるプロジェクトとして注目を集めています。
→横浜市 根岸住宅地区の跡地利用
→横浜市 106.(仮称)新根岸地区土地区画整理事業(米軍返還前) 環境影響評価手続
(仮称)新根岸地区土地区画整理事業の概要
- 返還の経緯と背景
昭和22年に米軍に接収された根岸住宅地区は、長らく横浜市の都市づくりを制約してきた土地であり、平成16年に返還方針が決定。令和元年には原状回復のための共同使用が合意され、返還実現に向けた具体的な動きが進んでいる。 - 土地の規模と価値
計画地は約50haに及ぶ広大な面積を持ち、市内では極めて希少な未利用地。返還後は横浜の都市構造を変えるポテンシャルを持つ重要な都市資源と位置づけられている。 - 事業の目的
米軍住宅地を市民に開かれた空間へ転換し、環境に配慮した持続可能な街づくりを進める。住宅や教育研究拠点、公園整備を通じて、快適な住環境と都市機能を両立させることを狙う。 - 事業手法
「土地区画整理事業」を導入し、土地の提供と再配分を行いながら道路・公園などの基盤を整備。無秩序な宅地化を防ぎ、計画的な都市開発を可能にする。 - 土地利用計画
跡地は「文教ゾーン(大学・研究機能)」「住宅ゾーン(良質な住環境)」「森林公園ゾーン(緑地拡張・憩いの場)」の3つに分けて整備し、教育・居住・自然が調和した都市モデルを形成する。 - 環境・防災への配慮
広域避難場所としての機能を維持しつつ、緑地整備や透水性舗装による環境負荷の軽減を実施。災害に強く持続可能な街づくりを推進する。 - スケジュールと展望
令和9年度に都市計画決定、令和11年度に工事着手を目標とする。返還後は横浜都心やみなとみらいと連携し、市の成長戦略を支える新しい都市拠点となることが期待される。

第二次世界大戦後、横浜市内の広い範囲が米軍施設として接収され、市の都市づくりは長らく制約を受けてきました。根岸住宅地区もその一例であり、戦後70年以上にわたり地域住民の自由な利用が叶わず、地元にとって「空白地帯」として存在してきました。
平成16年に返還方針が決定して以降、横浜市は「米軍施設返還跡地利用指針」や「跡地利用基本計画」などを策定し、地域の将来像を検討してきました。これらは単なる開発計画ではなく、市の成長戦略に直結する重要な政策でもあり、市民・専門家・行政が参加して議論が重ねられてきました。今回の区画整理事業は、こうした長年の議論を具体化する第一歩といえます。


計画区域は中区・南区・磯子区にまたがる約50haで、根岸駅から北へ約1km、吉野町駅から南へ約1kmの高台に位置しています。横浜の都心部やみなとみらい21地区へのアクセスにも優れており、将来的には市中心部との連携を深める役割も期待されます。
周囲には国道16号・357号、横浜鎌倉線といった幹線道路が通り、広域交通ネットワークとの結節点としても重要な位置づけを持ちます。さらに、根岸森林公園や山手地区など緑豊かな地域に隣接しているため、自然環境と都市機能を両立できる立地条件を備えています。都市の利便性と自然の豊かさを兼ね備えた点が、この地区の大きな魅力です。

本事業の目的は、米軍住宅地の跡地を安全かつ持続的に活用できるよう整備し、市民に開かれた新しい都市空間へと転換することです。公共施設の整備改善を進め、快適な住環境を整えるとともに、教育・研究・医療などの機能を取り込み、横浜市の将来を担う基盤を築く狙いがあります。
事業手法には「土地区画整理事業」が採用されます。これは土地所有者が一定割合で土地を提供し、道路・公園など公共施設を整備したうえで、残りの土地を再配分する方式です。これにより、無秩序な宅地化を防ぎ、計画的かつ環境に配慮した街づくりが可能となります。

跡地は大きく3つのゾーンに分けて整備される方針です。
- 文教ゾーン:横浜市立大学医学部の教育・研究拠点としての利用が想定されています。高度医療や先端研究を担う施設が立地することで、横浜市の医療・研究力を強化する効果が期待されます。
- 住宅地ゾーン:低層住宅を中心に、良質で安心できる住環境を整備します。子育て世帯や高齢者も暮らしやすい街区設計とし、地域コミュニティの形成を促進します。
- 森林公園ゾーン:根岸森林公園の拡張を通じて、市民が自然と触れ合える空間を創出します。散策路や広場の整備によって、日常的に利用できる憩いの場を提供します。
これらのゾーンを有機的に連携させることで、教育・居住・自然が調和した新しい都市モデルの形成が目指されます。

この地域はかつて「広域避難場所」としての役割も担っており、防災上の重要性が非常に高いエリアです。そのため、区画整理事業においても避難路や安全なオープンスペースを確保し、災害時に市民が安心して避難できる仕組みを維持します。
また、開発に伴う環境負荷の軽減も重視されています。切土・盛土の際には景観や眺望への影響を考慮し、道路や歩道には透水性舗装を導入。街区内には緑地を積極的に配置し、ヒートアイランド現象の抑制や生態系保全を図ります。こうした取り組みによって、持続可能で災害に強い街づくりを進める方針です。

施工は原状回復作業の終了後に順次進められます。工事に際しては、騒音・振動・粉じんの抑制、工事車両の安全運行、建設副産物のリサイクルといった環境対策が徹底されます。特に周辺住民への影響を最小化するため、情報提供や説明会などを通じて透明性の高い事業運営が求められています。
さらに、工事期間中においても地域社会との協力関係を重視し、住民参加型のまちづくりを同時並行的に進めていくことが想定されています。工事そのものを単なる物理的な造成作業にとどめず、地域との対話を通じて「次世代にふさわしい街づくり」を進めることが特徴といえるでしょう。

市は令和9年度に都市計画決定を行い、令和11年度の工事着手を目指しています。ただし、これは米軍施設の返還時期や原状回復の進捗に左右されるため、柔軟な調整が必要とされます。
事業が実現すれば、教育拠点、住宅地、公園が調和した新しい街並みが誕生し、横浜都心部やみなとみらい地区との連携が一層深まるでしょう。さらに、市全体の成長戦略とも呼応しながら、地域の魅力と国際競争力を高める役割を果たすことが期待されます。
長年閉ざされてきた土地が市民に開放されることで、横浜の都市構造は新たな段階へと進化し、歴史的にも大きな転換点を迎えることになるといえます。
最終更新日:2025年8月31日

