東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は、グループ経営ビジョン「勇翔2034」を具体化する取り組みとして、モビリティ事業で初めてとなる中長期成長戦略「PRIDE & INTEGRITY」を策定しました。本戦略は、安全を経営の最優先としつつ、20年後(2045年)の社会や交通の未来像を見据えた成長ビジョンを描き、10年後に目指すモビリティの姿を明確にしています。戦略の推進により、2031年度にはモビリティ事業の営業収益を2兆円超とし、2024年度比で2,000億円以上の増収を実現することを目標に掲げています。
大きな特徴は、AI・デジタル技術を活用した安全性向上や次世代エネルギーの導入、鉄道と地域交通の連携強化に加え、首都圏の象徴的な路線である山手線へ2035年までに自動運転導入を見据えている点です。これにより、利用者にとってより安心・快適で持続可能な移動手段を提供し、社会全体の課題解決にも貢献することを目指しています。
→東日本旅客鉄道株式会社 モビリティ中長期成長戦略「PRIDE & INTEGRITY」の策定
JR東日本 モビリティ中長期成長戦略「PRIDE & INTEGRITY」の概要
- 戦略の位置づけ
JR東日本が2025年に策定した、モビリティ事業として初の中長期成長戦略。グループ経営ビジョン「勇翔2034」を具体化する取り組みの一環で、20年後(2045年)の未来を見据えたビジョンと10年後の具体的施策を示す。 - 名称の意味
「PRIDE & INTEGRITY」は、社員が誇り(PRIDE)と誠実さ(INTEGRITY)を持ち、「当たり前」を超えて進化する姿勢を込めたもの。社会的責任を果たしつつ成長を目指す理念を表す。 - 数値目標
2031年度にモビリティ事業の営業収益を2兆円超とし、2024年度比で2,000億円以上の増収を目標とする。単なる収益拡大でなく、社会課題の解決と両立を掲げる。 - 4つの柱
戦略の重点は「安全レベルの向上」「収益力向上と社会課題解決」「技術革新と構造改革」「未来の輸送サービスの進化」。これにより利用者の安心と利便性を高めるとともに、社会全体の持続可能性に貢献する。 - 安全重視の姿勢
AIやデジタルツインを用いた予測・分析を導入し、事故やトラブルを未然に防止。2031年度までに鉄道運転事故30%減、ホームでの人身障害事故80%減を目指す(2023年度比)。 - 地域・社会との共生
新幹線の増備や夜行特急の投入、イベント誘致やインバウンド促進などで交流人口を拡大。駅周辺再開発や「はこビュン」物流拡充を通じ、地域経済やライフスタイルの多様化にも対応する。 - 山手線自動運転導入
戦略の象徴的施策として、2035年までに首都圏の大動脈である山手線に自動運転を導入。AIや高度制御技術を活用し、運行の正確性・安全性を高めるとともに、将来的な他路線への展開を視野に入れる。

「PRIDE & INTEGRITY」という名称には、JR東日本グループのモビリティ事業に従事するすべての社員が、プロフェッショナルとしての誇り(PRIDE)と誠実さ(INTEGRITY)を原動力に成長を追求していくという決意が込められています。単なる収益拡大にとどまらず、社会的責任を果たしながら持続可能な未来を築く姿勢を象徴するものです。
2025年7月に発表された「勇翔2034」では、グループ全体の成長に向けて「二軸経営」の方針が打ち出されましたが、その中でモビリティ事業は生活基盤を支える中核として位置づけられています。今回の戦略はその方向性を具体化し、鉄道を中心としたモビリティの役割を再定義すると同時に、将来に向けた挑戦を体系的に整理したものとなっています。

本戦略は、2045年という長期的な未来像を想定したうえで、当面の10年間における重点的な取り組みを明確化しています。特に「安全レベルの向上」「収益力向上と社会課題解決」「技術革新と構造改革」「未来の輸送サービスの進化」の4つを柱とし、具体的な成果目標を設定しています。
戦略の大きな特徴は、鉄道・バス・タクシーといった複数の交通手段を組み合わせ、利用者にとって最適な移動手段を提供する「モビリティのベストミックス」を推進する点です。これにより、都市部だけでなく地方や観光地においても多様化する移動ニーズに応え、誰もが安心して移動できる社会の実現を目指しています。

安全はJR東日本にとって最大の信頼基盤であり、経営の最優先課題と位置づけられています。戦略では「想定外を想像する」姿勢を重視し、AIやデジタルツインを駆使したリスク予測を取り入れることで、事故やトラブルを未然に防ぐ体制を強化します。
具体的には、2031年度までに鉄道の運転事故を30%減少させ、駅ホームでの人身障害事故を80%減少させることを目標としています(2023年度比)。さらに、衛星通信を利用した新しい踏切保安システムの導入や、自然災害時の情報伝達・輸送体制の強化なども計画されています。これにより、利用者にとって「最も安心できる交通手段」としての地位を確固たるものにする方針です。

本戦略では収益力の向上と社会課題の解決を両立させることを重視しています。新幹線の増備や長距離夜行特急列車の投入により、移動時間を快適で有意義な体験に変えることを目指しています。これに加え、音楽コンサートや外国人インフルエンサーを起用した観光紹介、海外からの観光客に向けたインバウンドプロモーションの強化など、交流人口を拡大する施策も積極的に進めるものとしています。
また、鉄道用地を活用した開発や駅周辺の街づくりなどJR東日本型の公共交通指向型都市開発(J-TOD)を推進することで、地域経済の活性化にも貢献するものとされています。二地域居住の支援サービスや物流サービス「はこビュン」の拡充は、働き方やライフスタイルの多様化に応えるとともに、地域間の結びつきを強める役割を担います。これらの施策は、単なる企業利益ではなく、社会全体の持続可能性に直結する取り組みです。

これまで培ってきた鉄道技術に加え、次世代の移動を支える新技術の開発と導入が戦略の中核に据えられています。完全チケットレスの実現や、改札を通過するだけで乗車できるウォークスルー改札の導入は、利用者の利便性を飛躍的に高める施策です。さらに、衛星を活用した列車制御システムや、水素エネルギー・核融合エネルギーなどの次世代エネルギー技術の活用も視野に入れています。
業務効率化においては、AIやロボットを積極的に導入し、省人化や省力化を進めることで持続可能な経営基盤を築きます。また、鉄道システムや車両技術の外部提供を通じて事業領域を広げ、JR東日本グループ全体を「技術サービス企業」へと進化させる構想も打ち出されています。

本戦略の象徴的な取り組みの一つが、2035年までに進められる山手線への自動運転の導入です。山手線は首都圏の主要な環状路線として膨大な輸送量を担っており、技術革新の成果を社会に示す上で最適な舞台といえます。
現在は深夜帯や試験運転での検証が進められており、今後はAIを活用した運行管理や高度な自動制御システムを取り入れることで、運行の正確性と安全性をさらに高めることが目指されています。自動運転の導入により、乗務員の負担軽減や安定的な輸送力の確保が可能となり、将来的には他路線への波及も視野に入っています。
この取り組みは単なる効率化にとどまらず、災害時や異常時における運行の強靭性を高め、利用者にとってより安心できる移動体験を提供するものです。山手線で培った知見は、地方路線や新幹線といった他の路線にも展開され、JR東日本全体のモビリティ進化を牽引していくことが期待されています。
最終更新日:2025年9月10日

