ドイツの建築スタジオLAVA(Laboratory for Visionary Architecture)は、2030年にサウジアラビアのリヤドで開催される国際博覧会(Expo 2030 Riyadh)のマスタープランを公表しました。これまで万博は革新的な技術や建築を披露する場であると同時に、一時的なイベントとして終わることが多く、閉幕後には空虚な会場や不要となった建造物が残されるケースも少なくありませんでした。LAVAはそうした過去の課題に対し、持続可能な都市づくりに貢献する「永続的な遺産」としての万博を提案し、都市の未来像を提示しています。
会場はリヤド北部、キング・サルマン国際空港に近接した広大な敷地に整備され、総面積は約600万平方メートルに達します。世界195カ国以上が参加し、4,000万人を超える来場者を想定しており、テーマは「変化の時代:先見的な明日のために共に(The Era of Change: Together for a Foresighted Tomorrow)」です。このテーマの下、イベント期間だけでなくその後も存続する都市の姿を描き、自然と調和しながら未来を切り開く試みとなります。
→ビジョナリーアーキテクチャー研究所 レガシーの設計 万博デザインの進化: 儚いものから永続的な都市プロトタイプへ
リヤド万博マスタープランの概要
1. 公表の概要
ドイツの建築スタジオLAVAによる、2030年リヤド国際博覧会マスタープランの公表
2. 万博の課題と解決策
閉幕後に残される空虚な施設への対処としての「持続可能な都市遺産」の提案
3. 会場の立地
リヤド北部・キング・サルマン国際空港近接地という戦略的ロケーション
4. 規模と参加国
約600万平方メートルの敷地規模と、世界195カ国以上の参加予定
5. 開催テーマ
「変化の時代:先見的な明日のために共に」という総合テーマ
6. マスタープランの特徴
自然との調和と長期的な都市利用を志向する持続可能な都市モデル
7. 意義と展望
閉幕後の「グローバル・ビレッジ」化と、サウジアラビア「ビジョン2030」への貢献

万博は1851年のロンドン万国博覧会以来、近代建築や技術革新を紹介する舞台であり続けてきました。クリスタルパレスやエッフェル塔など、歴史的建築物が象徴として語り継がれてきた一方で、閉幕後の会場は解体されるか、都市に不整合を抱えたまま残されることが多く、その遺産の評価は複雑でした。
LAVAは、リヤド万博をこうした一過性の催しから脱却させ、未来都市の原型として持続的に機能することを目指しています。設計パートナーのクリス・ボッセ氏は、「万博は常に突破口を示す場であり、このプロジェクトを通じて都市づくりの新たな方向性を提示し、持続可能で暮らしやすい都市の実現に貢献したい」と語り、万博そのものを次世代の都市モデルに位置づけています。

今回の会場計画では、リヤド郊外に位置するワジ・アル・スライ渓谷の地形や水脈が基盤とされています。従来の直線的な格子状都市計画ではなく、自然の地形に沿った有機的なネットワークを導入し、中央の大広場から放射状に広がる「クールルート(涼しい経路)」によって会場全体が組織されています。
これらは水流や緑地と結びつき、砂漠の厳しい環境においても快適な小気候を形成します。さらに土壌の安定化や水循環の強化、植樹を通じて自然の回復力を活用し、洪水リスクを抑えながら緑豊かな空間を実現します。古代のオアシス都市が自然と共生しながら繁栄した歴史を踏まえつつ、それを未来的に再解釈することで、都市と自然の調和を体現した新しい万博像が描かれています。

敷地は中央広場を起点に、花びらが広がるように五つの主要エリアで構成されます。それぞれはテーマや役割が異なり、「変革的技術」「持続可能な解決策」「豊かな人々」という三つの国際的テーマを担うエリアに加え、サウジアラビアを象徴するエリア、そして大規模な国際交流やイベントを担う「国際協力」のエリアが設けられています。
各エリアはフラクタル幾何学の概念をもとに設計され、部分と全体が自己相似的に呼応するパターンが用いられています。これにより、秩序立った構造を持ちながらも多様性に富んだ都市景観が生まれ、訪れる人々に一体感と変化の双方を感じさせます。閉幕後もこの構造は維持され、それぞれのエリアが独自の文化的・社会的活動を展開する「村」として発展していく計画です。

会場内は従来型の自動車依存を避け、歩行者を中心としたモビリティ設計が導入されています。主要動線の中心には「ワールドアベニューループ」と呼ばれる環状の歩行者専用回廊があり、五つのエリアを快適につなげます。広々とした緑地のプロムナードから、スークを想起させる細い路地まで、多様なスケールの経路が組み合わされ、移動そのものが体験的要素となるよう工夫されています。
さらに、暑さを和らげる日陰の回廊や高架歩道が設けられ、酷暑下でも安心して歩ける環境が整えられています。都市全体との接続も重視され、リヤド・メトロやキング・サルマン国際空港に直結し、市内主要道路とも連携することで、国内外からのアクセスが容易となっています。こうした仕組みは閉幕後も地域の交通基盤として機能し、都市の持続的発展に寄与します。

Expo 2030のマスタープランは、人工知能や持続可能エネルギーによるスマートインフラを中核に据えています。建築群は気候応答型の設計が採用され、環境に適応しながらも最先端の利便性を提供します。建物は国際的なグリーンビルディング基準に準拠しており、砂漠という過酷な自然環境の中でも持続可能な空間が実現されます。さらに展示会場やパフォーマンスホール、レストランやショップなどが会場全体に配置され、来場者に多様で没入的な体験を提供します。これらは単なる商業施設にとどまらず、砂漠地帯を文化・社会活動の拠点へと変える要素として機能し、万博が目指す「都市のエコシステム」の構築に寄与します。
Expo 2030は2025年の大阪・関西万博に続く大規模国際博覧会ですが、その最大の特徴は閉幕後に解体されることなく、新たな都市機能へと移行する点にあります。リヤドの会場は「グローバル・ビレッジ」と呼ばれる新しい都市地区へと変貌し、住宅、文化拠点、研究交流の場として活用される計画です。

この発想はサウジアラビアが掲げる国家戦略「ビジョン2030」と軌を一にし、国際的な交流とイノベーションの拠点づくりに直結します。万博が終わった後も都市の一部として成長を続け、環境的・社会的・文化的なレガシーを築くことで、リヤドの国際都市としての地位を高めるとともに、未来の万博モデルを提示することが期待されています。
最終更新日:2025年9月11日

