四日市市は2025年9月、「四日市市大学基本計画」を公表しました。産業都市として発展してきた同市では、石油化学、半導体、自動車関連などの製造業が集積し、長年にわたり地域の経済を支えてきました。しかし一方で、こうした産業を担う理工系人材の育成機関が十分に存在せず、県外への進学や流出が続いていることが大きな課題となってきました。今回の基本計画は、その解決策として「産業を支え、地域に根差す公立大学を新設する」という市の明確な方針を示すものです。
大学はJR四日市駅前という利便性の高い立地に整備され、地上9階・高さ約45メートル・延床面積約51,800平方メートルという規模になります。施設は大学キャンパスに加え、商業機能や駅前広場、JR四日市駅の駅舎、自由通路、駐車場、駐輪場などを備えた複合ビルとして計画されています。整備スケジュールは、令和9年度に工事着手、令和12年度に工事完了、令和13年度(2031年度)に開学という流れです。大学の新設により、研究開発と人材養成を通じて産業競争力の維持・強化や地域活性化が図られるとともに、若者の定住促進にもつながることが期待されています。
四日市市大学基本計画の概要
- 計画の趣旨と目的
JR四日市駅前に公立大学を設置する方針、公立大学による理工系人材育成と産業基盤強化、地域活性化の実現 - 背景と地域課題
理工系学部の不足と県外進学による人材流出、地元企業における専門人材不足の長年の課題 - 国の政策との連動
DX・カーボンニュートラル・半導体産業強化への対応、人材育成政策との合致と国の支援活用の可能性 - 立地の意義
JR四日市駅前の交通利便性、広域からの通学の容易性、中心市街地再編や都市機能との連携、都市の顔としての位置づけ - 教育分野と学部構成
理学・工学・情報を中心とした学び、AI・データサイエンス導入、産学連携授業や地域課題解決型教育 - 施設計画とスケジュール
地上9階、高さ約45m、延床面積約51,800㎡の複合ビル、建設着手から10年以内の開学目標、官民連携による財源確保 - 期待される効果
地元高校生の流出抑制と地元就職促進、人材定着と企業誘致、研究拠点としての機能、東海西部における中核都市としての存在感向上

三重県全体では少子化により18歳人口が減少しているものの、大学進学率は全国的な傾向と同様に上昇を続けています。特に理工系分野への志向は強いものの収容力は低く、県内の高校生が県外の名古屋や関西の大学へ進学するケースが多く見られます。その結果、四日市市や北勢地域で学びたいという若者のニーズに応えることができず、将来的に地域に戻らないケースも増加しています。
加えて、地元企業からは「工学・情報系の専門人材が不足している」「地元採用が難しい」という声が強く、大学の不在が産業基盤の維持におけるボトルネックとなっていました。このような状況を受け、市は長年検討してきた大学設置に具体的な道筋を示す段階に至りました。

国の教育政策も今回の計画を後押ししています。政府はデジタルトランスフォーメーション(DX)、カーボンニュートラル、半導体産業の強化といった国家的課題に対応するため、理系人材の育成を最重要課題に位置づけています。加えて、少子化時代においても地域における教育機会の確保は地方創生の柱とされ、公立大学は「地域の教育の砦」として重視されています。四日市市の計画は、こうした国の方向性と合致し、国の補助制度や支援策を活用できる可能性も高いと見込まれています。結果として、地域課題の解決と国の政策目標の実現を同時に進めるモデルケースとなることが期待されます。


大学の設置場所がJR四日市駅前に選定されたことには、複数の意味があります。第一に、公共交通機関でのアクセスが極めて良好であり、市内外からの通学が容易になる点です。高校生や保護者が望む「1時間圏内での通学」を実現しやすく、広域からの学生受け入れも見込めます。第二に、市が推進している中心市街地の再編事業との相乗効果です。
既に整備が進む「バスタ四日市」や新図書館といった都市機能と連携することで、学生の学びと地域生活を結びつけることができます。第三に、駅前というシンボリックな立地は、市民にとっても大学の存在を身近に感じられる効果があり、まち全体の活力向上につながります。都市の顔である駅前に大学を置くことは、四日市市の将来像を示す重要なメッセージでもあります。

基本計画が示す教育分野の中心は「理学・工学・情報」の3領域です。これは、四日市市が抱える産業構造と直結しています。例えば石油化学分野では化学工学の専門知識が不可欠であり、半導体や自動車産業では情報工学や機械工学の人材が求められています。
また、AIやデータサイエンスなど新たな技術領域も不可欠であり、カリキュラムは産業界と連携しながら柔軟に設計される予定です。さらに、地域課題の解決力を持った人材を育成するため、産学連携型の授業や地域プロジェクト型の学びも取り入れることが想定されています。大学は単なる教育機関ではなく、地域社会の課題解決と産業の発展を牽引する「知の拠点」として機能することが目指されています。

施設面では、講義棟、研究棟に加えて、産業界との交流や市民との協働を可能にする多目的スペースの設置が検討されています。例えば公開講座や企業セミナーを実施できるホール、学生が自由に交流できるコミュニティ空間など、地域に開かれた大学像が描かれています。
さらに、駅前の立地を活かし、地域イベントや市民活動との連携も想定されています。スケジュールとしては、基本設計、実施設計を経て、数年以内に建設着手、10年以内の開学を目指す流れが示されています。市は今後、整備費用の具体化や財源確保のため、国・県や企業からの支援、PPP(官民連携手法)など多様な可能性を探る方針です。

調査結果によれば、北勢地域の企業は特に工学系と情報系の人材不足を強く訴えており、採用活動においても県外の大学に頼らざるを得ない現状があります。新大学の設置によって、地元の高校生が県外に流出する割合を抑え、さらに卒業後に地域企業へ就職する流れを生み出すことが可能になります。
これは「人材の地産地消」を実現するものであり、産業界の競争力維持に直結します。また、大学の存在は新たな研究開発の拠点として企業誘致にもつながり、地域経済に波及効果を及ぼすと期待されます。若者が集い、研究と産業が連動する環境が整うことで、四日市市は東海西部の中核都市としての存在感をさらに強めることになるでしょう。
最終更新日:2025年9月8日

