大分県は令和8年3月23日の知事定例会見において、「豊予海峡ルート」における道路トンネルの検討結果を公表しました。豊予海峡ルートの構想は、大分県佐賀関半島と愛媛県佐田岬半島を結ぶ全長約21.3kmの海底トンネル等により、九州と四国を直結する国家的プロジェクトです。今回の検討では、青函トンネルと同様の山岳工法を前提とした長大海底トンネルの実現可能性や概算事業費が具体的に示され、構想が新たな段階へと進展しました。整備が実現すれば、西日本の広域交通ネットワーク強化や物流効率化、防災機能の向上など、多方面にわたる効果が期待されています。
豊予海峡ルートの概要
1.構想の概要
大分県と愛媛県を結ぶ全長21.3kmの海底トンネル構想の具体化。
九州と四国を直結する国家的広域交通プロジェクトの前進。
2.検討結果の公表
令和8年3月23日の知事定例会見で道路トンネル案を提示。
工法や事業費を含む具体的な検討内容の明確化。
3.技術的な方向性
青函トンネルを参考とした山岳工法の採用方針。
長大海底トンネルとしての実現可能性の確認。
4.トンネル構造の特徴
本坑・先進導坑・作業坑による多層構造の計画。
安全性と維持管理性を両立する設計思想の採用。
5.概算事業費の全体像
総事業費約1兆5,200億円に及ぶ大規模インフラ計画。
海峡部トンネルが大半を占める費用構成の特徴。
6.広域的な整備効果
西日本の交通ネットワーク強化と時間短縮効果の創出。
物流効率化や経済波及、防災機能向上への寄与。
7.今後の課題と展望
巨額事業費や技術的課題など解決すべき論点の存在。
国主導や民間活用を含めた実現に向けた議論の本格化。

豊予海峡ルートは、大分県の佐賀関半島と愛媛県の佐田岬半島の間に位置する豊予海峡を横断し、九州と四国を直接結ぶ構想です。海峡幅は約13.90km、最大水深は約190m(約195m)に達する国内有数の難所であり、その横断は長年にわたり国家的課題とされてきました。
豊予海峡ルートの構想は、平成10年に策定された「21世紀の国土のグランドデザイン」において示された「太平洋新国土軸」の一部として位置づけられており、東海から四国を経て九州に至る新たな広域交通軸の形成を担うものです。現在の日本では、東海道から山陽にかけての太平洋ベルト地帯に人口や産業が集中していますが、豊予海峡ルートの整備はこうした偏在の是正を図り、多軸型の国土構造への転換を促す役割を持つとされています。

今回の検討では、豊予海峡を横断する手法として海底トンネル案が具体的に整理され、その施工方法として青函トンネルで採用された山岳工法を基本とする方針が示されました。豊予海峡は地質条件や水深の点で厳しい環境にありますが、既往の地質調査結果は引き続き有効な基礎資料として活用できると判断されており、これを踏まえて工法の検討が進められています。
トンネルは、車両が通行する本坑に加え、施工時の地質確認や供用後の維持管理に活用される先進導坑、さらに作業や避難機能を担う作業坑によって構成される計画です。これらを組み合わせることで、安全性や維持管理性を確保しながら長大トンネルの施工を可能にする設計となっています。また、縦断勾配は最大4%に抑えられ、道路構造令に適合した走行性の確保も図られています。

今回公表された試算によると、豊予海峡ルート(道路)の概算事業費は約1兆5,200億円にのぼります。このうち、海峡部のトンネル部分だけで約9,300億円を占めており、事業全体の中核を成すことがわかります。一方、陸上部については約5,900億円とされ、大分県側が約1,000億円、愛媛県側が約4,900億円と見込まれています。
トンネル内部の構造別に見ると、本坑が約6,200億円、先進導坑が約1,600億円、作業坑が約1,500億円と試算されており、長大海底トンネル特有の複合的な構造が事業費に大きく影響していることが特徴です。過去に検討されてきた橋梁案と比較すると、トンネル案は技術的な制約が少なく、事業費の面でも一定の優位性があるとされており、現実的な整備シナリオとして再評価されています。

豊予海峡ルートが整備されることで、西日本の広域交通ネットワークは大きく強化されます。九州と四国が直結されることで、中国地方を含めた広域的な連携が進み、これまで分断されがちだった地域間の移動や物流が円滑化します。特に関西圏とのアクセス改善効果は大きく、大分から大阪方面への移動時間は大幅に短縮される見込みです。

また、物流面ではトラック輸送への転換や輸送時間の短縮により、輸送コストの削減と効率化が期待されています。こうした変化は企業活動の活性化や新たな産業立地の誘発につながり、地域経済に対しても大きな波及効果をもたらします。試算では、観光消費や産業集積、物流効率化などを合わせた経済波及効果は全国で年間1,000億円規模に達するとされています。
さらに、防災面においても重要な役割を果たします。現在、本州と九州を結ぶ主要ルートは関門海峡に依存していますが、大規模災害時には代替ルートの確保が課題となります。豊予海峡ルートの整備により、交通ネットワークの多重化が図られ、災害時のリダンダンシー向上に大きく寄与することが期待されています。

豊予海峡ルートは大きな可能性を持つ一方で、その実現にはいくつかの重要な課題が残されています。特に最大の課題は、1兆円を超える巨額の事業費であり、国の関与や財源確保の仕組みづくりが不可欠です。また、長大海底トンネルの施工には高度な技術と長期間を要するため、施工リスクの管理や環境への配慮も慎重に検討する必要があります。
一方で、近年の検討では料金収入を前提とした事業スキームにおいて、一定の条件下で民間投資が可能であるとの試算も示されており、官民連携による整備の可能性も見え始めています。今後は、地域や経済界と連携した機運醸成を進めるとともに、国の整備計画への位置づけを目指した働きかけが重要となります。
豊予海峡ルートは、西日本の交通体系を根本から変革し、日本の国土構造そのものに影響を与える潜在力を持つプロジェクトです。今回の検討結果の公表を契機として、今後の議論がさらに本格化していくことが注目されます。
出典・引用元
・大分県 令和8年3月23日知事定例会見 豊予海峡ルートにおける道路トンネルの検討結果について
・大分県 豊予海峡ルートについて
最終更新日:2026年3月27日