広島大学旧理学部1号館の保存・活用は、広島市中区東千田町に位置する広島大学本部跡地の再生プロジェクトの中核を担う取り組みです。広島大学旧理学部1号館は1931年に竣工した歴史的建築物であり、1945年の原爆による被害を受けた「被爆建物」としての側面も併せ持っています。
広島市は、この建物を単なる保存にとどめるのではなく、「知の拠点」として再生し、平和に関する教育・研究・交流機能を導入することで、都市の活性化と「ヒロシマの心」の継承を図る方針です。現在は老朽化や耐震性の課題を抱えつつも、正面部分の保存を軸に再整備が進められており、工事完了は2034年度にずれ込む見通しとなっています。
広島大学旧理学部1号館の保存・活用の概要
1.事業の概要
広島大学本部跡地における再生プロジェクトの中核としての旧理学部1号館の保存・活用事業
被爆建物の保存と「知の拠点」形成を両立する都市再生施策
2.歴史的背景
1931年に広島文理科大学本館として建設され戦後まで教育拠点として機能した建物
原爆により被災しながらも復興の象徴として活用された歴史的資産
3.被爆建物としての価値
爆心地から約1,420mで被爆した希少な遺構として台帳登録された建築物
外壁や構造体に被爆の痕跡を残す平和学習資源としての価値
4.立地と都市計画上の位置づけ
広島大学本部跡地の「知の継承エリア」に位置する重要拠点
都市機能集積と連動し都心再生を担う象徴的な存在
5.保存・活用の基本方針
被爆の実相継承と知の創造を両立する保存活用方針の策定
正面部分保存を軸に柔軟な範囲設定を行う段階的整備方針
6.導入機能と施設計画
平和研究・教育・情報発信・市民交流を担う複合機能の導入計画
大学研究機関の集約による国際的平和研究拠点形成の構想
7.整備スケジュールと課題
耐震補強や老朽化対策を含む大規模改修と新築併用の整備計画
工期延伸により2034年度完成見込みとなる長期事業としての課題

旧理学部1号館は、昭和6年(1931年)に広島文理科大学の本館として建設されました。その後、昭和20年8月6日の原爆投下により、爆心地から約1,420mの地点で被爆し、建物は外郭を残して焼失しました。しかし翌年には講義が再開されるなど、戦後復興の象徴的存在として活用されてきました。

戦後は学制改革により広島大学理学部校舎として使用され、平成3年の東広島キャンパス移転まで教育研究の場として機能しました。現在は閉鎖されていますが、躯体や外壁、花崗岩の装飾など一部に当時の姿を残しており、平成5年度には被爆建物として正式に台帳登録されています。こうした歴史的・象徴的価値は、広島の都市アイデンティティを体現する重要な資産といえます。

旧理学部1号館が立地する広島大学本部跡地では、「ひろしまの『知の拠点』再生プロジェクト」に基づき、都心の新たな都市機能集積が進められています。このプロジェクトは、かつて学都として発展した広島の歴史を踏まえ、教育・研究・交流機能を軸とした都市再生を目指すものです。

広島大学本部跡地は約9.2haの広大なエリアで構成され、「知の育成エリア」「知の継承エリア」「にぎわい形成ゾーン」などに区分されています。このうち旧理学部1号館の敷地は「知の継承エリア」に位置づけられ、被爆建物の保存と活用を通じて、過去の記憶と未来の知をつなぐ役割を担います。また、周辺ではタワーマンション「hitoto 広島 The Tower」の建設や公園整備も進められ、都市空間としての再編が進行しています。

広島市は平成29年に保存・活用方針を策定し、「被爆の実相を伝える保存」と「平和に関する知の拠点としての活用」を両立させることを基本理念としています。保存の考え方としては、建物の正面部分を中心に据えつつ、必要に応じて範囲を拡張する柔軟な方針が採られている点が特徴です。
また活用面においては、単なる保存にとどまらず、複合的な機能の導入が検討されています。具体的には、大学間連携による平和に関する教育・研究機能を中核に据え、被爆の実相や研究成果を国内外へ発信する情報発信・展示機能、さらに市民が交流や学習、活動を行うことができるコミュニティスペースの整備など、多面的な役割を担う施設としての展開が想定されています。

とりわけ、広島大学平和センターや広島市立大学広島平和研究所の移転が計画されている点は重要であり、これにより研究機関の垣根を越えた連携拠点の形成が期待されています。その結果、国内外に開かれた平和研究のハブとしての機能が一層強化される見込みです。

基本計画では、保存部分と新築部分を組み合わせた複合施設として整備する方針が示されています。施設内には講義室や研究室、多目的スペース、展示室などが配置され、教育・研究・市民活動を一体的に支える空間構成が想定されています。
一方で、建物は被爆による損傷や長年の劣化により耐震性が不足しており、大規模な補強・改修が不可欠です。また、外壁タイルの剥落や設備更新、土壌汚染対策など、多くの技術的課題も抱えています。概算事業費は約63億円(当初)とされ、財源確保や事業スキームの構築も重要な論点です。

さらに、当初計画より事業費が倍増し、工期が延びて完成は2034年度に遅れる見通しとなっており、長期的な視点での事業推進が求められています。今後は関係機関や市民との連携を図りながら、歴史的価値の継承と持続可能な活用の両立が鍵となります。
最終更新日:2026年3月30日