愛知県庁本庁舎では、2022年10月から2026年1月まで約40カ月にわたり、重要文化財建造物の保存を目的とした大規模な屋根改修工事が実施されました。1938年3月に竣工した同庁舎は、名古屋城大天守を思わせる城郭風の屋根を戴く帝冠様式の代表的建築として知られ、2014年12月には国の重要文化財に指定されています。
今回の工事では老朽化した銅板屋根の全面葺替えを中心に、木下地の補修や軒裏モルタルの修繕、避雷針の復旧などを実施。文化財としての価値を守りながら、今後も現役庁舎として使用を続けるための保存改修となりました。工事完了後には、長年親しまれてきた緑青色の屋根から一転し、銅本来の輝きを持つ新たな屋根景観が現れています。
愛知県庁本庁舎の概要
1.重要文化財・愛知県庁本庁舎の屋根改修完了
1938年竣工、2014年に国重要文化財指定を受けた愛知県庁本庁舎の大規模屋根改修工事。
2022年10月から2026年1月まで実施された銅板葺替えと保存修理事業。
2.銅板屋根の全面葺替えと景観再生
老朽化した銅板屋根を全面更新し、軒裏モルタルや木下地も補修した保存改修。
緑青色から新たな銅色へと変化した名古屋官庁街の象徴的景観。
3.文化財を守る巨大な素屋根の設置
本庁舎全体を覆う自立式足場「素屋根」を設置した大規模仮設工事。
免震構造と連動する「すべり支承」を採用した先進的な文化財保護技術。
4.木下地再利用による文化財保存
既存木材を可能な限り再利用しながら進められた木下地調査と補修工事。
交換材に「令和四年度補修」と刻印を残した将来修繕への配慮。
5.地下に128基を設置した免震レトロフィット
2005年から2009年に実施された地下免震層新設による耐震改修工事。
旧留置場跡を活用して導入された128基の免震装置と防災技術。
6.名古屋城と調和する帝冠様式建築
城郭風屋根と近代建築を融合した昭和前期を代表する帝冠様式の庁舎建築。
西村好時と渡辺仁による設計思想が反映された歴史的ランドマーク。
7.明治から続く愛知県庁の歴史と継承
竹腰邸時代から移転を重ね、1938年に現在地へ完成した愛知県庁の歩み。
現役庁舎として使われ続ける全国でも希少な“生きた重要文化財”の存在。

愛知県庁本庁舎は、1938年3月に完成した鉄骨鉄筋コンクリート造の庁舎で、2014年には国の重要文化財に指定されました。名古屋城の南側に位置し、城郭風の屋根を載せた独特の外観で知られています。

今回の屋根改修工事は、老朽化した銅板屋根の更新を目的として2022年10月18日に着工し、2026年1月30日までの工期で進められました。工事では、銅板の葺替えだけでなく、軒裏モルタルの補修、木下地の修繕、避雷針の撤去復旧なども実施されています。
改修前の屋根は長年の酸化によって緑青色へと変化していましたが、改修後は新しい銅板特有の鮮やかな銅色へと一新されました。名古屋の官庁街を象徴する景観が刷新され、大規模文化財修理としても注目を集めています。

工事では、文化財建築を雨風から保護するため、本庁舎全体を覆う巨大な「素屋根(すやね)」が設置されました。これは文化財修復工事特有の仮設構造物であり、今回の工事では建物外周から支える「自立式足場」が採用されています。
特に特徴的なのは、本庁舎が免震建築であることを踏まえ、素屋根側にも「すべり支承」を設けた点です。地震時には建物と素屋根が一体的に動く構造となっており、歴史的建築物の保存と安全性を両立させる高度な技術が投入されました。

また、銅板撤去後には木下地の詳細調査も行われ、文化財保護の観点から可能な限り既存木材を再利用しています。交換した木材には「令和四年度補修」と刻印を施し、将来の修繕時に改修履歴が分かるよう工夫されました。
新しい銅板屋根は現在こそ光沢のある銅色ですが、今後ゆっくりと酸化が進み、約30年後には再び緑青色の屋根へ変化するとされています。

愛知県庁本庁舎では、屋根改修以前にも大規模な保存改修が実施されています。その代表例が、2005年から2009年にかけて行われた免震レトロフィット工事です。
2002~2003年度の構造調査では、東海・東南海連動型地震クラスの揺れで中破または大破する恐れが指摘されました。そこで、重要文化財級の歴史的建築を保存しながら耐震性能を向上させるため、地下に免震層を新設する工事が進められました。

工事では、地下1階にあった旧留置場の一部を撤去し、鉛入り積層ゴムアイソレータなど128基の免震装置を設置。巨大な庁舎全体を免震化する全国でも先進的な事例となりました。この耐震改修は「平成25年度耐震改修優秀建築賞」も受賞しており、文化財保存と防災技術を融合した先駆的プロジェクトとして高く評価されています。

愛知県庁本庁舎最大の特徴は、名古屋城天守を思わせる和風屋根を頂部に載せた「帝冠様式」の外観です。帝冠様式とは、鉄筋コンクリート造の近代建築に和風意匠を組み合わせた1930年代特有の建築様式で、当時の日本的デザイン思想を象徴する存在でした。

本庁舎は、建築家・西村好時と渡辺仁の基本設計を基に、愛知県営繕課が実施設計を担当。外壁は下層部に花崗岩、中層部に黄褐色タイル、上層部に白色磁器タイルを用いることで、名古屋城の白壁や地域産業である陶磁器文化も表現しています。
また、建物は単なる装飾建築ではなく、内部動線にも合理性が追求されています。中央大階段を設けず、「日の字型」の平面構成を採用することで、執務効率を重視した近代庁舎として計画されました。歴史性と機能性を両立した昭和前期を代表する官庁建築と言えます。


愛知県庁の歴史は、明治初期の「政事堂」にまでさかのぼります。尾張藩付家老・竹腰家の旧上屋敷を利用した庁舎から始まり、東本願寺別院、南久屋町、南武平町へと移転を重ね、1938年に現在地へ移転しました。
現在の本庁舎建設は、昭和天皇御大典記念事業として計画されましたが、議会での否決や財政難、戦時下の資材高騰など幾多の困難を経て実現しています。名古屋市役所本庁舎とともに、名古屋城周辺の歴史的景観を形成する重要な存在となりました。

戦後も現役庁舎として使われ続け、2014年には「意匠的に優秀なもの」「歴史的価値の高いもの」として国の重要文化財に指定されています。重要文化財でありながら現在もメイン庁舎として使用されている例は全国的にも極めて珍しく、愛知県庁本庁舎は“生きた文化財”として、これからも名古屋の中心で歴史を刻み続けていきます。
最終更新日:2026年5月9日