新しい静岡県立中央図書館「新県立中央図書館整備事業」は、東静岡駅南口エリアに建設予定の大規模な複合文化施設として計画されています。総事業費約298億円を見込むこのプロジェクトは、図書館機能に加え、多目的ホールやセミナールームなど、さまざまな用途に対応した施設を併設し、県内外からの多様な利用者に応える設計です。これまでの図書館のイメージを刷新し、単なる読書や資料収集の場を超えた、学び・交流・創造の拠点となることを目指しています。
この図書館の中心的なコンセプトは、「知のサンクチュアリ」としての役割を果たすことです。あらゆる世代や背景を持つ人々が平等に情報や知識にアクセスできる環境を整え、包摂性(インクルージョン)を重視した設計が特徴です。地域の歴史や文化を反映しつつ、ユニバーサルデザインを採用し、すべての利用者に優しい空間を提供します。この新しい図書館は、ただの情報集積所ではなく、県民一人ひとりが学び、交流し、新たな価値を創造する場として、静岡県全体の未来を支える象徴的な施設となることを目指しています。
計画の概要
1. 静岡県を象徴する文化拠点
新しい県立中央図書館は、静岡県内外の人々が集い、学び、創造する文化の拠点として計画されています。図書館の中心には膨大な資料体を垂直的に配置し、過去から現在、未来へと知識を継承していく象徴的な空間を構築します。
2. 施設規模と多機能性
地上10階建てで延床面積約20,599㎡のこの施設は、図書館機能に加えて多目的ホールやセミナールーム、ラボスペースなど多様な用途に対応。静岡県の文化や地域資源を活用した、誰にでも開かれた施設として設計されています。
3. ユニークな建築コンセプト
建築デザインは、スパイラル状に上昇するフロア構成を採用。低層階は賑わいと交流を生む新しいタイプの図書館空間、上層階は静かに読書や研究に没頭できる空間へとグラデーションを持たせています。この構成は、学びや発見の連続性を象徴しています。
4. 地域資源の積極活用
「ふじのくに公共建築物木使い推進プラン」に基づき、県産木材を500㎥使用し、温かみと親しみやすさを感じられる空間を実現。また、静岡の自然環境を最大限に生かした植栽やテラスを設け、地域の魅力を反映した設計です。
5. 持続可能性と安全性への配慮
太陽光発電や雨水利用、最新の高効率設備を組み合わせ、ZEB Ready(ゼロエネルギー建築)の実現を目指しています。さらに、免震構造と耐震設計を融合させることで、地震リスクを最小化し、資料や利用者を守る安全性を確保しました。
6. アクセスと利便性の向上
東静岡駅と直結する立地を活かし、ペデストリアンデッキを通じて徒歩アクセスを確保。駐車場550台、駐輪場370台、バイク置場41台も備え、多様な交通手段に対応した計画となっています。館内ではバリアフリー設計を徹底し、すべての人にとって使いやすい空間を提供します。
静岡県の歴史や文化を反映した建築デザインも、この新しい図書館の特徴です。中心部に位置する資料保存空間は、高いセキュリティを確保する一方で、周囲の閲覧空間とのつながりを重視。同心円状に広がるこのデザインは、かつての駿府城の城郭構造を暗示しており、伝統と現代性が見事に融合しています。
資料体を守る「お堀」として機能する吹き抜け空間は、利用者に対して視覚的なインパクトを与えるだけでなく、空間全体の流れを統一します。こうしたデザインは、資料の保存性や利用者の利便性を高めるだけでなく、静岡ならではの文化的アイデンティティを体現しています。
新図書館では、誰もが利用しやすいよう、徹底したユニバーサルデザインを採用しています。館内にはエレベーターやスロープが適切に配置され、視覚障害者向けの音声案内も導入。さらに、車いすでの来館にも対応した動線設計を行っています。
一般利用者の動線と資料やスタッフの動線を明確に分離することで、効率的かつ快適な利用環境を実現しました。この配慮が行き届いた設計は、全ての利用者にとって、分かりやすく合理的でストレスのない図書館利用を可能にします。
静岡県の豊かな自然を象徴するスギやヒノキなどの県産木材を500㎥も活用した空間は、新しい図書館を訪れる人々に温かみと安心感を与えます。この木材の利用は、地元の林業を支えるだけでなく、環境への配慮や地域文化の発信にもつながっています。
木の温もりを感じる空間は、来館者に心地よい体験を提供し、学びや交流の場としての魅力をさらに高めます。県全域の木材をふんだんに使用したこの図書館は、静岡の地域資源を最大限に生かした空間づくりの象徴です。
新図書館は、環境への配慮を最優先に考えた設計が特徴です。太陽光発電や雨水利用などの自然エネルギーを活用し、高性能機器や設備を組み合わせることで、省エネルギーと持続可能性を実現しています。また、建物全体の熱負荷を抑える工夫が施され、ZEB Ready認証を目指しています。
こうした環境配慮型の建築は、地域社会の持続可能な未来を象徴するだけでなく、次世代への環境教育の場としても役立つことでしょう。新しい図書館は、静岡の自然環境と調和しながら、人々に快適な空間を提供します。
図書館の中心部に設置された巨大な資料体は、静岡県の豊かな歴史や文化の記録を象徴する垂直的なアーカイブとして構築されています。一方、低層階に広がる水平的な空間は、利用者が自由に歩き回りながら学びや交流を深めることができる場所です。
この2つの空間がスパイラル構造によって繋がることで、知識と活動の連鎖が生まれ、まるで知の生態系の中を探求するような感覚が得られます。また、この構造は、まち全体から引き込まれた多様な活動が上層階の資料体へと集積され、再びまちへと発信される循環を視覚的に示しています。垂直と水平、動と静が共存するこの空間は、利用者に新たな発見と知的興奮をもたらします。
東静岡駅から直結するアクセスの良さを最大限に活かし、地域と一体化した配置計画を採用しました。多目的ホールは駅前ロータリーに面し、文化や交流の中心として機能します。さらに、セミナールームやラボが交差点や道路沿いに配置されており、外からその活動が垣間見える構造となっています。
こうした設計により、図書館は内部だけでなく、周囲のまちに対しても活発なアクティビティを発信する場となります。図書館とまちが一体となることで、静岡県全体の文化の拠点としての役割がさらに強化されます。
しかし、この意欲的なプロジェクトは現在、工事入札が不調に終わるという厳しい状況に直面しています。主な原因としては、昨今の建築コストの上昇や人手不足などが挙げられます。
これにより、予定していた工期や予算計画の見直しが必要となり、プロジェクトの進行に影響を及ぼしています。県はこの事態を受け、入札条件の緩和や設計内容の再調整を検討しながら、計画の実現に向けた対応を急いでいるとのことです。
最終更新日:2024年11月26日