東京都は2025年4月25日、「日本橋川周辺のにぎわい創出に向けた基本方針(取組方針Ver.1)(案)」を公表し、都民からの意見募集(パブリックコメント)を開始しました。この基本方針案は、江戸時代より水運の拠点として栄えた日本橋川の歴史や文化を活かしながら、再び「水の都」としての魅力を取り戻し、国際都市・東京を象徴するにぎわいのある街づくりを目指すものです。首都高速道路の地下化工事や大規模な沿川開発を契機として、都市空間の再構築が本格化する中、川辺の再生と活用に焦点を当てたこの構想は、未来の東京にとって極めて重要な取り組みとなります。
本方針案は、都市の歴史的価値と自然環境の保全、文化の継承、さらには歩行者や舟運といった多様なネットワークの強化を通じて、日本橋川周辺を持続的かつ多様性あるまちへと導くことを意図しています。市民の声を反映させた上で、今後正式な基本方針として策定される予定です。
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日本橋川周辺のにぎわい創出に向けた基本方針(取組方針Ver.1)(案)の概要
- 歴史・文化の活用
江戸時代の水運の拠点としての歴史資源の活用、文化の継承と観光資源としての価値向上。 - 水質改善と生物多様性の保全
水質向上のための対策、地域ぐるみの美化活動、生物多様性の保護。 - 歩行者空間の整備
歴史的・文化的魅力を活かした歩行者空間の整備、アクセス向上、バリアフリー設計。 - 舟運の活用
舟運の観光や通勤への活用、船着場整備、運航ルートの拡充、水上交通と陸上交通の連携強化。 - エリアごとの特性に基づく発展
ゾーンごとの特性を活かしたにぎわい創出、水道橋・神保町エリア、大手町・神田エリアの活性化。 - 環境教育と自然観察
自然環境の教育的活用、生物多様性回復、自然観察の場の提供、都市内での自然との共生。 - インフラ整備と持続可能な運営
水質改善、景観整備、川沿いの緑地保全、新たなビジネスの誘発、官民連携による維持管理。

日本橋川は、江戸時代に整備された水路網の一部として、水運と交流の要衝となり、「水の都」江戸を象徴する景観を形成していました。当時は舟運や人の往来が盛んで、先端の商業や文化が生まれる土壌となっていたのです。しかし、明治時代以降のモータリゼーションや都市化の進展により、水辺のにぎわいは失われていきました。さらに河川の水質悪化、川に背を向けた建物の建設、高架の首都高速道路の建設などにより、水辺の景観は大きく変貌しました。

現在の日本橋川は、江戸から明治、そして戦後復興の時代を象徴する歴史的資源が多く残り、皇居をはじめとする自然資源も点在する貴重な都市空間です。今後、2040年頃に予定されている首都高速道路の地下化を契機に、新たな都市空間の創出が期待されています。まちの再構築が進む中で、日本橋川のポテンシャルを最大限に活かし、国内外から注目される水辺空間とするためのビジョンが今、動き始めています。

日本橋川周辺には、江戸城外濠の遺構、明治の近代建築、震災復興橋梁など、多様な歴史資源が残されています。これらは一部が重要文化財に指定されており、歴史的背景を色濃く映し出しています。土地利用の面でも、江戸時代の町割りや用途が現代にも影響を与えており、江戸時代の町地には商業施設、屋敷地にはオフィスが立地するなどの傾向が見られます。特に日本橋室町、日本橋人形町、神保町などの地区には創業100年以上の企業も多く、都市のアイデンティティを形成しています。
課題としては、護岸の一部がコンクリート化され景観の統一性を欠くこと、歴史を伝える機会や場の不足などが挙げられています。これらの課題を乗り越え、歴史資源の再評価と体験型の活用が求められます。


日本橋川周辺では、神田祭・山王祭・深川祭といった伝統的祭礼の継続、地域主導の先進的イベント、江戸以来の食文化や工芸、芸能、出版といった文化の厚みが今も息づいています。老舗の百貨店、食材店、工芸品の店などが、現代でも日本文化を発信し続けています。
しかし、情報発信の不足や継承が困難な文化技術の存続といった課題も顕在化しています。今後は、文化の可視化や次世代への継承の仕組みづくりが重要です。

日本橋川は下水道整備などにより水質改善の傾向はあるものの、依然として硫化水素臭や水の白濁、スカムの発生、アオコの流入といった課題を抱えています。特に夏場には水中酸素量の低下による悪臭が顕著になり、水辺空間の魅力を損ねています。また、流域の雨水排水に伴うゴミ流入も水質悪化の一因となっています。
今後は、水質改善のための構造的・制度的な対策とともに、市民の意識啓発や地域ぐるみの美化活動が求められます。
日本橋川には、魚類や鳥類、植物など多様な生物が確認されており、都心では貴重な水辺環境となっています。ただし、生物のすみかとなる空間は限られており、緑のネットワークも十分に連結されていないため、今後は生息環境の回復や教育的な自然観察の場づくりが必要です。都市の中の自然との共生モデルとして、日本橋川の価値を高めることが期待されます。

川沿いには一部緑道や歩行者動線が整備されていますが、建物が川際まで接近している区画が多く、連続した歩行空間が形成されていません。さらに、横断歩道の不足や階段構造など、バリアフリーの観点からも改善の余地があります。川へ向かう導線として広い道路は確保されているものの、歴史や文化の案内情報は乏しく、川の存在を意識しづらいのが現状です。
橋詰広場の活用や、川沿いを巡れる回遊動線の形成、駅からのアクセス向上、対岸との連絡強化など、あらゆる世代が安全かつ快適に川に親しめる環境の整備が求められています。


日本橋川には現在4か所の船着場が整備されており、さらに1か所が令和8年に向けて整備中です。隅田川と接続する下流域では、すでに舟運を活用した観光や移動サービスが展開されており、日本橋川でもその活用が期待されています。
舟運ネットワークの整備により、陸上交通と水上交通が連携した都市構造の実現が視野に入ります。観光や通勤、イベント時の移動など、多目的に利用できる水辺交通として、船着場や乗降設備の充実、運航ルートの拡充が課題となっています。

この計画では、日本橋川沿いのエリアにおいて、歴史・文化・自然を活かした魅力的な都市空間の創出を目指しています。全ゾーン共通の取り組みとして、川に開かれた建築物の配置やデザインの統一により、にぎわいと調和のある景観形成を進めています。また、護岸や橋梁の整備、ライトアップ、案内板設置を通じて、歴史資源や文化の魅力を強化し、高質な水辺空間を創出することで、新たなビジネスや活動の誘発を目指します。さらに、次世代技術を活用したAR体験や実証実験によるにぎわい創出を推進し、官民連携による維持管理、水質改善、収益活動などの仕組みづくりを進めています。
インフラ整備・活用の方向性としては、河川の水質改善や生物多様性保全、高潮対策を実施するとともに、川沿いの緑地保全・活用や環境学習の機会提供にも力を入れています。また、歩行者ネットワークの整備やアクセス性の向上を図り、川沿いに建物を向けることで、歩きたくなる水辺空間を整備します。舟運の活用や新規航路の検討も行われています。

各ゾーンの取り組みについては、ゾーン1(水道橋・神保町など)では、学生街や古書店街の特性を活かしたにぎわい創出が目指され、地域イベントやエリアマネジメントとの連携が強化されます。首都高高架下のライトアップやアートによる空間活用も計画されています。ゾーン2(大手町・神田など)では、大手町と神田の特性を活かし、歴史資源による回遊性向上を図るとともに、街路整備による魅力的な都市空間の形成が進められます。また、歩行者用橋梁や民地・道路の一体整備も行われます。

ゾーン3(日本橋・人形町など)では、日本橋周辺の歴史的建造物や商業文化を活かして、国際的観光・商業エリアを形成します。統一感ある街並み整備とイベント活用により、さらに活気ある街づくりが目指されます。歴史文化を反映した歩行者ネットワークや舟運の整備も進められます。ゾーン4(茅場町など)では、隅田川や亀島川との接続を強化し、親水空間を活かした日常的に使える魅力的なまちづくりが進められます。
最終更新日:2025年5月3日