小田急電鉄は、老朽化が進む相模大野に位置する現行の「大野総合車両所」を伊勢原市串橋地区へ移転する計画を進めています。新たな総合車両所は、現在の車両の長編成化や最新技術、環境負荷低減を見据えた設備の導入に対応し、鉄道輸送の安全性と持続可能な運営体制の構築を目指します。
伊勢原市も都市計画道路田中笠窪線の整備と合わせて、この移転を契機に産業都市軸の形成やスマート新駅設置の検討など、持続可能でスマートなまちづくりを推進するために小田急電鉄と連携しています。今回の計画は、伊勢原市にとって新たな地域拠点の創出を促し、将来の都市構造の充実と地域活性化に大きく寄与するものです。
→伊勢原市 総合車両所の移転計画地周辺における「新たな地域拠点」の創出に向けたまちづくりのイメージに関する中間とりまとめ
→伊勢原市/小田急電鉄株式会社 伊勢原市×小田急電鉄都市計画道路田中笠窪線と新たな総合車両所を契機とした「持続可能なまちづくりを推進する連携協定」を締結
小田急電鉄総合車両所移転計画と周辺まちづくりの概要
- 老朽化した現行施設の更新必要性
現行の大野総合車両所は60年以上経過し老朽化が進み、修理も限界に達しているため、安全かつ効率的な車両検査を維持するには新設移転が不可欠。 - 新設場所として伊勢原市串橋地区を選定
既存敷地内の更新は困難で、候補地検討の結果、災害リスクが低くアクセスが良好な伊勢原市串橋地区への移転が最適と判断された。 - 長編成車両に対応した最新設備の導入
新しい総合車両所は10両編成に対応し、作業効率化や安全性向上、省エネルギー設備も取り入れた次世代型施設となる。 - 地域環境との調和と防災対策の実施
盛土による敷地嵩上げや排水設備の強化など洪水リスク低減策を講じ、地域住民の安全・安心な暮らしを守る取り組みを進めている。 - 伊勢原市との連携によるまちづくり推進
伊勢原市と小田急電鉄は持続可能な都市づくりに向けて連携協定を結び、都市計画道路の整備やスマート新駅の検討など地域活性化に取り組む。 - 地域の交通アクセスと産業集積の強化
新総合車両所は東名高速道路や国道などの交通網に近接し、産業拠点としての機能強化と地域経済の活性化が期待される。 - 将来のスマートモビリティ社会に対応した展望
ICT活用や環境負荷低減技術を導入し、持続可能で快適な都市生活と鉄道運営の両立を目指す未来志向の計画である。

現状の大野総合車両所は1962年10月に開設されてから約60年が経過し、施設自体と検査機械の老朽化が深刻な課題となっています。これまで延命措置や修理を繰り返して機能を維持してきましたが、これ以上の維持は困難で、修理不能に陥れば車両検査が滞るリスクが高まります。特に大野総合車両所は、小田急線全体で唯一、車両の主要部分をほぼすべて取り外して詳細検査や大規模修理を行える重要な施設です。そのため、既存施設を稼働しながらの段階的な改修ができず、新設移転による更新が不可欠となっています。

また、当初4両編成対応として設計された施設は、現在の主流である10両編成車両の整備には対応しておらず、車両の分割検査や一部野外での検査作業など非効率な工程を強いられています。新設する総合車両所では、長編成車両に完全対応するとともに最新設備を導入し、検査作業の効率化と安全性向上を図ることが可能となります。さらに環境に配慮し、省エネルギー機器や温室効果ガス削減技術を導入することで、地域と鉄道運営の持続可能性にも貢献します。

当初は現在の大野総合車両所敷地内での更新を検討しましたが、十分な敷地面積が確保できず、日常検査業務を止めずに段階的な建て替えを行うことが困難であると判断されました。敷地内に余剰地がなく、工事期間中の施設稼働維持が物理的に不可能であるためです。また、他の既存車両基地も面積不足や市街化の進展、地形条件の制約により、拡張や移転先としては適さないことがわかりました。
一方、敷地外での候補地は小田急線沿線で災害リスクの低い地域に絞り込まれ、伊勢原市串橋地区が最終候補地に決まりました。候補地の一部は洪水浸水想定区域に入りますが、計画高を盛土により浸水想定以上に設定することで河川氾濫リスクを回避する対策も検討されています。これらの理由から、移転による新設が最も合理的かつ安全な選択肢と結論づけられています。


移転計画の実施区域は神奈川県中央部に位置する伊勢原市南部の笠窪・串橋・神戸地区です。周辺は農地や工業地帯、住宅地が混在しており、地域の多様な土地利用が見られます。北側には東名高速道路が通り、伊勢原大山インターチェンジが近接するため、物流や産業拠点としての利便性が高い場所です。地域の交通網は良好で、東名高速道路や国道246号線、主要地方道が整備されており、自動車交通量も一定の水準を維持しています。

地域の道路網は東名高速道路を中心に、伊勢原ジャンクションや国道246号線、相模原大磯線など主要幹線道路が整備されています。特に伊勢原ジャンクションは東名高速道路と新東名高速道路の交点であり、交通アクセスの要となっています。地域の交通量調査では大型車の割合も一定で、産業拠点としての利用実態が見られます。
鉄道は小田急小田原線が東西に走り、最寄り駅は東方向2.5kmに伊勢原駅、西方向1kmに鶴巻温泉駅が位置します。伊勢原駅は4万6,390人/日が利用する主要駅で、地域の通勤・通学・物流の拠点となっています。鉄道網の利便性は移転後の総合車両所の運用においても重要な役割を果たします。

伊勢原市では「伊勢原市都市マスタープラン」に基づき、将来に向けた「3つの未来図」を掲げています。これには「快適に暮らせる都市」「活力ある都市」「個性と魅力ある都市」が含まれます。少子高齢化や人口減少に対応しつつ、医療・福祉・教育の施設整備を充実させることで、安全・安心な地域コミュニティの形成を図ります。
また、農業の6次産業化推進や産業集積促進により経済活性化を目指すとともに、自然環境や歴史文化の保全も重視しています。都市としての魅力向上と環境負荷の少ない市街地形成を通じて、持続可能な発展を実現しようとしています。新たな総合車両所建設と都市計画道路の整備は、この都市構造の充実に大きく寄与します。

2023年3月に伊勢原市と小田急電鉄は「持続可能なまちづくりを推進する連携協定」を締結しました。この協定は、都市計画道路田中笠窪線の整備と小田急電鉄の新総合車両所建設計画を連携して推進し、相互に協力しながらまちづくりを進めるものです。
協定では、都市の集約型発展や産業都市軸の形成、さらにICT技術を活用したスマート新駅の検討など、未来のスマートモビリティ社会に対応した持続可能な地域づくりを目指します。伊勢原市の都市計画と小田急電鉄の施設計画が一体的に進むことで、地域の活力向上や生活環境の質的向上が期待されています。

新総合車両所周辺地域は、工業団地、農地、住宅地が混在しており、北部には伊勢原大山インターチェンジの開通に伴う新たな産業集積も計画されています。伊勢原市の中心拠点である伊勢原駅周辺や愛甲石田駅周辺と連携して、地域のコンパクトで活力ある都市構造の維持が図られます。
総合車両所の新設により、地域の産業活性化だけでなく、防災・安全面でも強化が期待されます。特に洪水対策としては盛土による敷地嵩上げや排水設備の強化を行い、浸水リスクを軽減します。これにより安心して暮らせるまちづくりと、交通利便性を両立させる都市計画が進行しています。

今後は都市計画道路田中笠窪線の整備を着実に進めるとともに、新総合車両所の建設工事を推進します。これにより、地域の交通ネットワークの強化と産業振興の好循環を生み出すことが期待されます。また、スマートモビリティ社会に対応したICT活用や新たな交通システムの導入も検討されており、地域の利便性と環境配慮を両立したまちづくりを進めていきます。
伊勢原市と小田急電鉄は引き続き連携を強化し、未来志向の持続可能な都市形成を目指します。この協力関係は、地域住民の生活の質の向上や新たな雇用創出にもつながる重要な取り組みです。
最終更新日:2025年6月21日