インド政府は、日本で2027年秋以降に導入する次期東北新幹線車両「E10系」を導入する形で、初の本格的な高速鉄道システムを国内で開業する方針を明確にしました。 計画の中心にあるのは、ムンバイとアフマダーバードを結ぶ508kmの区間で、2027年の開業を目指して建設が進められています。
この「インド高速鉄道計画(HSR)」は、インドの都市間交通を劇的に変革し、地域経済、雇用、技術革新に多大な影響を与えると期待されています。 日本からの巨額の円借款や技術支援によって進められており、環境適応や現地化も含めて、アジアでの高速鉄道輸出の象徴的なプロジェクトとなっています。
インド高速鉄道計画の概要
- 計画の概要
インド初の本格的高速鉄道として、日本の新幹線技術を導入したムンバイ~アフマダーバード間(508km)の路線を2027年開業予定で建設中。都市間移動時間を大幅に短縮する。 - 歴史的背景
高速鉄道の構想は1980年代に始まり、2009年の「ビジョン2020」や2014年以降のモディ政権下で本格化。2015年に日本の支援でMAHSRプロジェクトが正式始動。 - 路線と構造の詳細
全体の約90%が高架、21kmがトンネル(うち7kmはインド初の海底トンネル)。主要駅はムンバイ、スーラト、アフマダーバードなど12か所。 - 建設技術と工法
高速施工が可能な「フルスパン・ローンチング工法」や、トンネル建設におけるTBMとNATMを採用。日本の先端土木技術が多数導入されている。 - 車両と適応技術
日本のE5系をベースに、高温多湿・多塵なインドの気候に対応する改良が加えられている。冷却能力やフィルター設計などが現地仕様に調整された。 - 経済・社会的効果
雇用創出、地方都市の発展、交通結節点の整備を通じて、都市と地域の格差是正に寄与。駅周辺では都市開発が進行中。 - 今後の展望
インド全土にわたる12ルートの高速鉄道網構想(ダイヤモンド四角形構想)が進行中。日本との協力により、交通・経済インフラの次世代モデルとなる可能性が高い。

インドで高速鉄道の構想が初めて浮上したのは1980年代に遡ります。 当時の鉄道大臣マーダヴ・ラーオ・シンディアがその導入を提案しましたが、経済的負担の大きさや運賃の問題から、当時は実現性が低いとされていました。 その後、2009年に発表された「ビジョン2020」白書で改めて高速鉄道が国家構想として位置づけられ、6つの主要ルートへの導入が提唱されました。
転機となったのは2014年の総選挙です。 勝利したナレンドラ・モディ政権が「ダイヤモンド四角形構想」を掲げ、デリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタという主要都市を結ぶ高速鉄道網の整備を国家戦略として掲げました。 翌年の2015年には、日本の支援によってムンバイ~アフマダーバード間で新幹線技術を導入することが正式に決定され、プロジェクトは本格始動しました。

ムンバイ–アフマダーバード間の高速鉄道(MAHSR)は、全長508.17kmで、インド初の本格的な高速鉄道として建設中です。 最高速度は320km/hを予定しており、停車駅数は12。 うち主要な駅にはムンバイ、スーラト、ヴァドーダラー、アフマダーバードなどが含まれ、都市間の移動時間は最大3時間から最短2時間弱に短縮されます。 地域経済の統合や地方都市の成長促進が大きく期待されています
建設は約90%が高架で行われ、インドでは初となる「フルスパン・ローンチング工法」が導入されました。 この工法は従来の建設法より10倍のスピードで工事を進めることが可能です。 さらに、21kmに及ぶ長大トンネルの一部には、インド初の7kmの海底トンネル(ターネー・クリーク)が含まれ、トンネルボーリングマシン(TBM)とNATM(新オーストリアトンネル工法)の両方が採用されています。

本プロジェクトでは、当初から日本の新幹線車両をベースに設計された新幹線が導入することを検討していましたが、インド特有の高温(最大50℃)、多湿、多塵な環境に適応させる必要がありました。 これに対応するため、日本とインドの共同チームによる詳細な技術調査が実施され、冷房システムの強化、フィルター清掃の頻度増加、インド人乗客の体重と荷物の平均を考慮した車両の軽量化などが検討されていました。なお、2025年8月末にインドのモディ首相と石破茂首相が会談を行う見込みで、その際に日本で2027年秋以降に導入する次期東北新幹線車両「E10系」を導入することで合意するものとされています。
また、トンネルや橋梁、線路設置には日本の最新技術が導入され、現地技術者への訓練や人材育成にも力が入れられています。 乗客案内表示や安全マニュアルなどはヒンディー語と英語で作成され、地域に根ざした設計となっています。


高速鉄道の建設と運用は、単なる交通インフラの整備を超えて、インド社会全体に波及効果をもたらしています。 建設段階では数万人の雇用を創出し、駅周辺の都市開発も促進されています。 特にスーラト、サバルマティ、ヴィラーなどでは、交通結節点としての「マルチモーダル・ハブ」が計画され、バス・鉄道・メトロとの連携が進められています。
また、空港が存在しない中小都市が大都市と接続されることで、産業の分散化と地域間格差の是正にも貢献します。 このプロジェクトは、インド政府が推進する「Gati Shakti」構想や「Viksit Bharat」政策とも連携し、21世紀の新しい国家インフラモデルとなることが期待されています。
将来的には、デリー-アフマダーバード、デリー-バラナシ、チェンナイ-バンガロールなど12の高速鉄道回廊が整備される計画で、「ダイヤモンド四角形」構想が本格化すれば、インド全土に新幹線網が拡がり、巨大な経済圏の形成が進むでしょう。
最終更新日:2025年6月21日