小田急電鉄は、2026年度鉄道事業設備投資計画において、相模大野にある「大野総合車両所」の移転計画を引き続き推進する方針を示しました。2026年度は新たな総合車両所の整備に向けた用地確保と詳細設計を実施し、2027年度以降の工事着手に備えます。現在の大野総合車両所は1962年の開設から60年以上が経過し、施設や検査設備の老朽化が進行しているほか、現在主流となっている10両編成車両への対応が十分ではないという課題を抱えています。
移転先は小田急小田原線の伊勢原駅~鶴巻温泉駅間に位置する伊勢原市串橋地区で、約17.72haの広大な敷地に次世代型の総合車両所を整備する計画です。新施設では長編成車両に対応した効率的な検修体制を構築するとともに、省エネルギー設備や環境負荷低減技術の導入を進め、鉄道事業の持続可能な運営基盤を強化します。
また、この計画は単なる車両基地の移転にとどまらず、伊勢原市が進める都市計画道路田中笠窪線整備事業や新たな地域拠点形成とも連携して進められています。小田急電鉄と伊勢原市は2023年に連携協定を締結しており、産業都市軸の形成やスマート新駅の検討など、将来のスマートモビリティ社会を見据えたまちづくりの推進が期待されています。
小田急電鉄総合車両所移転計画の概要
1.2026年度設備投資計画で移転事業を推進
小田急電鉄は2026年度鉄道事業設備投資計画において、大野総合車両所移転に向けた用地確保と詳細設計を実施。
鉄道事業の持続可能な運営体制構築を支える重要プロジェクト。
2.老朽化が進む大野総合車両所の課題
1962年の開設から60年以上が経過し、建物や検査設備の老朽化が深刻化。
安全で安定した車両検修体制の維持に向けた施設更新の必要性。
3.10両編成時代に対応した新施設整備
現施設は4両編成を前提とした構造で、主流となった10両編成への対応に課題。
長編成車両の効率的な検査・修繕を可能とする次世代型総合車両所の整備。
4.伊勢原市串橋地区への移転計画
移転先は伊勢原駅~鶴巻温泉駅間の串橋地区で、約17.7haの広大な敷地を確保。
操車場や検車場、工場棟などを備える新たな鉄道メンテナンス拠点の形成。
5.防災性と環境性能を高める施設計画
盛土による敷地嵩上げや排水施設整備により、洪水リスクの低減を推進。
省エネルギー設備や環境負荷低減技術を導入する持続可能な施設整備。
6.伊勢原市との連携によるまちづくり推進
2023年に伊勢原市と小田急電鉄が連携協定を締結し、一体的な地域整備を推進。
都市計画道路田中笠窪線整備と連動した新たな地域拠点創出の取り組み。
7.スマート新駅と産業都市軸形成への期待
総合車両所建設を契機として、スマート新駅の検討や産業集積の促進を展開。
近未来のスマートモビリティ社会を見据えた新たな都市構造の形成。

現在の大野総合車両所は1962年10月に開設された小田急電鉄唯一の大規模検修施設であり、車両を分解して行う重要部検査や全般検査、大規模修繕などを担っています。しかし施設開設から60年以上が経過し、建物や検査設備機械の老朽化が深刻化しています。
これまで修繕や延命措置によって機能を維持してきましたが、設備故障によって検修作業が停止した場合には安全な列車運行に支障を及ぼす可能性があります。また、現施設は4両編成が主流だった時代に整備されたため、現在の主力である8両・10両編成への対応が十分ではなく、検査前に車両を分割する必要があるなど非効率な運用が続いています。こうした課題を解決し、安全で安定した鉄道輸送を将来にわたって維持するため、小田急電鉄は新たな総合車両所の建設を進めています。

移転先として選定されたのは伊勢原市南部の串橋地区で、小田急小田原線伊勢原駅と鶴巻温泉駅のほぼ中間に位置します。事業区域は約17.72haに及び、操車場や検車場、工場棟、構内通路、調整池、緑地などを備えた大規模な総合車両所が整備される計画です。

現車両所敷地内での建て替えも検討されましたが、十分な余剰地がなく、車両検査業務を継続しながら段階的に更新することが困難であることから、新たな用地への移転が最適と判断されました。伊勢原市串橋地区は広大な敷地が確保できるほか、東名高速道路や国道246号線に近く、大型車両の通行や資材搬入にも優れた立地条件を備えています。
新施設では10両編成車両に完全対応した検修設備を導入し、作業効率の向上や安全性の強化を図るとともに、省エネルギー機器や環境負荷低減技術の導入によって次世代型のメンテナンス拠点を目指すものとされています。

計画地周辺は農地や住宅地、工業団地が混在する地域であり、小田急電鉄は地域環境との調和を重視した施設整備計画を進めています。事業区域の一部は洪水浸水想定区域に含まれるため、鈴川周辺の想定浸水深を上回る高さまで盛土を行い、洪水時の安全性を確保する計画です。
さらに、調整池や排水設備の整備による雨水流出抑制、緑地の確保による景観・環境への配慮なども実施されます。環境影響評価手続きも進められており、騒音や振動、交通への影響などについて検証を行いながら事業化が進められています。車両所の更新によって検修作業の効率化だけでなく、環境負荷の低減や災害時の事業継続性向上も期待されており、鉄道インフラのレジリエンス強化にもつながる計画となっています。


総合車両所移転計画の大きな特徴は、伊勢原市のまちづくりと一体的に進められている点です。2023年3月には伊勢原市と小田急電鉄が「持続可能なまちづくりを推進する連携協定」を締結し、都市計画道路田中笠窪線の整備と総合車両所建設を核とした地域づくりを推進しています。
両者は、新たな産業都市軸の形成やスマート新駅の設置可能性についても検討を進めています。2025年6月には、総合車両所周辺を「新たな地域拠点」と位置付けた中間とりまとめが公表され、多様な産業や交通、生活機能が連携するスマートな地域拠点の形成方針が示されました。


伊勢原大山インターチェンジや新東名高速道路との近接性を生かした産業集積の促進、ICT技術を活用した次世代モビリティサービスの導入、鉄道と道路ネットワークの強化などが構想されており、総合車両所建設は地域活性化の起爆剤としても期待されています。鉄道施設の更新に加え、伊勢原市南部の新たな都市形成を担うプロジェクトとして、今後の動向が注目されます。
出典
・小田急電鉄株式会社 2026年度 鉄道事業設備投資計画
・伊勢原市 総合車両所の移転計画地周辺における「新たな地域拠点」の創出に向けたまちづくりのイメージに関する中間とりまとめ
・伊勢原市/小田急電鉄株式会社 伊勢原市×小田急電鉄都市計画道路田中笠窪線と新たな総合車両所を契機とした「持続可能なまちづくりを推進する連携協定」を締結
・神奈川県 小田急電鉄総合車両所移転計画に係る環境影響予測 評価書案に対する環境影響評価審査書
最終更新日:2026年5月25日