成田空港の将来像を描いた「エアポートシティ」構想が2025年6月12日に正式に発表されました。これは空港と周辺地域が一体となって発展し、地域のポテンシャルを最大限に活かすための中長期的ビジョンであり、「成田空港第2の開港」とも呼ばれる空港再編プロジェクトの中核をなす構想です。
国土交通省、千葉県、周辺9市町、成田国際空港株式会社で構成される「四者協議会」にて合意されたこの構想は、空港内外の共生と国際競争力の強化を目指したものです。多様なステークホルダーとともに、持続可能で魅力ある地域づくりを進めるための“議論の出発点”として位置付けられています。
→千葉県 成田空港「エアポートシティ」構想の公表について
→NRT エリアデザインセンター 成田空港「エアポートシティ」構想の公表について
成田空港「エアポートシティ」構想の概要
- ビジョンの掲げる方向性
「誰もが輝き、世界と響き合うフラッグシップ・エアポートシティ」の実現を目指し、単なる空港開発にとどまらず、国際競争力のある産業拠点および日本の成長戦略の一翼を担う都市圏の形成を志向しています。 - ビジョン実現のための基本方針
多様な主体による革新的な取組、民間資本による継続的な投資、規制緩和や制度導入といった柔軟な仕組みづくりを重視しています。 - 産業とイノベーションの促進
航空・先端技術産業、国際物流、医療・農業・観光の国際拠点化を推進し、規制緩和を通じた新産業の誘致を図ります。 - 人と暮らしの充実(ウェルビーイング)
高度人材の育成・誘致、自然と共生するライフスタイルの提案、教育や居住環境の整備により、質の高い暮らしを実現します。 - 交通・モビリティの整備
幹線道路・鉄道と連動し、周辺のまちづくりと一体となった公共交通ネットワークの効率化を進めます。 - 多様性と持続可能性への配慮
個性が尊重される社会づくりを目指し、防災体制の強化や環境に配慮した都市運営を推進します。 - 段階的な構想推進と柔軟な更新
構想期、実行期、展開期、定着・持続期の4フェーズに沿って中長期的に進行しつつ、情勢や地域ニーズに応じて構想を柔軟に見直していく方針です。

現在、世界は人口増加や気候変動、地政学的リスクの高まりなど複雑な課題に直面しています。アジアやアフリカを中心に航空需要は増加し、空港間の競争は一層激しさを増しています。一方、日本国内では人口減少や少子高齢化、国際競争力の相対的な低下が進行しています。成田空港周辺も、地域交通や農業の課題、外国人住民の増加など、対応すべき重要なテーマを抱えています。
こうした現実に向き合い、成田空港は日本経済の再活性化と地域発展の両立を図るため、「未来志向型のエアポートシティ」としての再構築を進めます。空港を拠点に世界の成長力を取り込み、国内外から注目される新たな都市モデルを目指すのがこの構想の狙いです。

「誰もが輝き、世界と響き合うフラッグシップ・エアポートシティ」をビジョンに掲げた本構想は、単なる空港の開発にとどまらず、国際的な競争力を有する産業拠点としての整備を進めるとともに、日本の成長戦略を支える都市圏の形成を視野に入れたものです。このビジョンを実現するためには、まず、多様な主体が関わり合いながら革新的な取り組みを推進していくことが重要です。
加えて、民間資本の積極的な投入を起点とした継続的な投資の誘導が求められます。さらに、規制緩和や新たな制度の導入といった柔軟な仕組みづくりも不可欠な要素となります。これらの取り組みに加え、次世代産業の育成やデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入を通じて、活力ある地域経済を築き上げることを目指します。その際には、地域固有の景観やアイデンティティを尊重しながら、世界水準の空港都市の実現に向けた総合的な取り組みが進められます。

ビジョンの実現に向けたアプローチは、産業・イノベーション、ウェルビーイング、交通・モビリティ、そしてダイバーシティ・サステナビリティの4つの主要領域に整理されています。まず「産業・イノベーション」においては、航空産業のみならず、先端技術産業や国際物流の集積を図るとともに、医療・農業・観光といった分野においても国際的な拠点化を推進します。その際、規制緩和を活用しながら、新たな産業の誘致を目指します。
「ウェルビーイング」の分野では、高度人材の育成や誘致に取り組むとともに、自然と共生する新たなライフスタイルの提案や、質の高い教育環境・居住環境の整備を進めていきます。「交通・モビリティ」に関しては、幹線道路や鉄道の整備と連動しながら、周辺地域のまちづくりと一体となった公共交通網の効率化を図ります。最後に「ダイバーシティ・サステナビリティ」では、すべての人がその個性を尊重される社会の実現を目指しつつ、空港と地域が連携した防災体制の構築や、環境への配慮を重視した都市運営を推進します。

「エアポートシティ」構想において、交通・モビリティは都市機能と国際拠点性を支える根幹です。空港が国内外と接続されるだけでなく、空港と地域住民、産業、観光資源がスムーズにつながることが、地域の一体的な発展に不可欠です。
このため、構想では高速道路や幹線鉄道のネットワーク強化とともに、地域内交通の利便性向上を重視しています。新駅の整備や空港付近の単線区間の解消など、既存の成田スカイアクセスや京成線、JR線の活用に加え、空港第3ターミナルへのアクセス強化や新たな交通モードの導入も検討対象です。さらに、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)といった先端技術を活かした次世代交通サービスの社会実装を目指します。
物流面でも、空港貨物と内陸の物流施設を効率的につなぐ専用道路整備や、スマート物流技術の導入が計画されています。また、圏央道(大栄JCT~松尾横芝IC)・東関道水戸線の開通や北千葉道路、新湾岸道路の整備などにより、人・モノの流れを最適化し、空港を核とする都市圏の「機能的な一体化」が進められます。
これらのモビリティ施策は、訪日外国人の利便性を高めるだけでなく、高齢化が進む地域住民の移動手段確保にも資するものであり、誰もが安心して移動できる「モビリティ共生都市」の実現を後押しします。

構想では、成田空港を中心に広域経済圏を形成し、空港周辺地域を5つのエリアに分けて機能的なゾーニングを行います。特に空港に隣接する4つのゾーンでは、アクセス性と立地の優位性を活かして国際的な産業・物流拠点を形成。観光や居住、商業など多様な機能が共存する拠点として発展させます。
それぞれのゾーンが独自の特色を持ちつつも相互に連携し、「空港を核とした都市圏」が全体として世界と接続される構造を目指します。地域と空港の有機的連携が、持続的な成長を支えるカギとなります。

構想の実現にあたっては、中長期的な視点に立った着実な実行が求められます。そこで、本構想では、その進捗に応じて「構想期」「実行期」「展開期」「定着・持続期」の4つのフェーズが設定されています。まず「構想期」では、関係者間で将来像を共有し、そのビジョンをもとに計画の具体化を進めていきます。次に「実行期」においては、主要な施策の実施やインフラ整備などの着手が始まります。
その後の「展開期」では、整備された空港機能や産業拠点等の空港周辺施設の供用が順次開始され、プロジェクトの効果が具体的に現れ始めます。そして最終段階である「定着・持続期」では、各種都市機能の定着を図りながら、自立的かつ持続的な都市の発展を目指していきます。これらのフェーズを段階的に推進する一方で、国の政策動向や国際情勢の変化、さらには地域のニーズにも柔軟に対応しながら、構想そのものの更新も適宜行っていく方針です。


本構想の推進には、国・自治体・空港会社だけでなく、企業や大学、地域住民など多様な主体が連携し、協働する体制が必要です。NRTエリアデザインセンターは、こうした関係者をつなぐ「結節点」として機能し、構想の周知・広報、マッチング支援、合意形成の調整を担います。
産官学の連携により、構想の実現に必要な法制度の整備、サービスの展開、人材育成、まちづくりなどを一体的に進めていきます。まさにこの構想は、地域と世界が響き合いながら共創する未来都市づくりの出発点です。
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最終更新日:2025年6月13日