東京都江戸川区に位置する「葛西臨海水族園」は、1989年の開園以来、日本を代表する水族館として多くの来園者に親しまれてきました。しかしながら、開園から30年以上が経過し、施設や設備の老朽化が進んでいることに加え、バリアフリーへの対応不足や飼育環境の改善など、さまざまな課題を抱えてきました。こうした現状を踏まえ、東京都は現在の水族園の隣接地に新たな水族園を建設する大規模リニューアル事業に着手しています。
この新しい水族園は、「海と接する機会を創出し、海と人とのつながりを通して海への理解を深める水族園」という新たな理念のもと、最新技術を駆使した展示空間や、多様な学びと体験を提供する場として整備されます。展示内容も大幅に刷新され、従来のような生物の美しさを伝える展示にとどまらず、海と人との関わりや環境課題などにも光を当て、より深い海の魅力とその保全意識を育むことが目指されています。
本事業はPFI-BTO方式により進められており、2028年9月の新施設開業を目標に、設計・建設が段階的に進行中です。既存の水族園についても、今後は新施設と連携しながら、地域全体の魅力向上に貢献していく予定です。
葛西臨海水族館リニューアルの概要
1. 開園の歴史と背景
葛西臨海水族園は1989年に開園した、日本有数の水族館。開園当初から、教育・研究・種の保存といった多様な役割を担い、来園者に海の魅力を伝えてきた施設である。
2. 老朽化と課題の顕在化
開園から30年以上が経過し、施設や設備の老朽化が進行。バリアフリー対応の不足や飼育環境の改善など、機能面・安全面における課題が浮き彫りとなっている。
3. 新水族園の建設決定
既存施設の抜本的改修が困難であることから、隣接地に新水族園を建設する方針を決定。全面的な機能刷新と展示内容の現代化を図る計画である。
4. 新たな理念と展示方針
新施設の理念は「海と人とのつながりを通して、海への理解を深める水族園」。従来の「見せる展示」から「感じて学ぶ展示」への転換を目指す方針である。
5. 展示と体験の進化
最新技術を活用した演出により、来館者が海の環境や文化を体感できる構成。学習・参加型プログラムの導入により、体験の深化と学びの強化を図る。
6. 事業スキームとスケジュール
PFI-BTO方式を採用し、2028年9月の開業を目指して事業を推進中。設計、建設、供用開始までを段階的に実施するスケジュールとなっている。
7. 今後の展望と地域連携
新水族園は、環境教育、観光資源、地域活性化の中核的存在として期待される施設。既存施設との連携により、葛西臨海公園全体の魅力向上を目指す方針である。

葛西臨海水族園は、明治15(1882)年に上野動物園内に設置された日本初の水族館「観魚室」を起源とし、平成元(1989)年に現在の地に開園しました。開園時から「海と人間との交流の場」を理念に掲げ、都立水族園として教育、研究、種の保存などの社会的役割を果たしてきました。とりわけ、クロマグロの群泳展示や深海生物の展示、生息域内保全の取り組みなど、他の水族館にはない独自性を築いてきました。
また、国内外の研究機関と連携した共同研究や技術支援、展示や繁殖技術の開発、学校教育への貢献など、専門性と公益性を両立させた運営を長年にわたり継続してきました。こうした実績は、日本のみならず世界の水族館からも高く評価されています。

開園から30年以上が経過した現在、葛西臨海水族園は多くの構造的・機能的課題に直面しています。施設全体の老朽化が進んでおり、配管の劣化やコンクリート水槽の腐食、アクリル接着部の劣化などが確認されています。加えて、塩害の影響も大きく、部分的な補修だけでは限界に達しつつあります。
設備面では、水族館特有のろ過装置や配管類が密集して配置されているため、機器の交換作業には観覧エリアの閉鎖が避けられず、全体的な改修を行うには長期休園が不可避な状況です。また、バリアフリー対応が不十分で、エレベーターの導線や観覧ルートの利便性にも課題があります。こうした状況は、来園者や飼育スタッフ、そして飼育動物にも影響を及ぼしています。


老朽化した現施設を抜本的に改修することは、構造上の制約や膨大なコスト、長期間の休園を伴うため、現実的な選択肢ではありません。そのため、新たな水族園を既存施設とは別の敷地内に建設し、展示・機能を段階的に移行する計画が採用されました。
新水族園の建設により、従来の課題を根本的に解決できるだけでなく、来館者から要望の多かった無料休憩所やレクチャールーム、レストランなどの設置も可能になります。加えて、十分な飼育スペースや作業環境が整備されることで、より高度な飼育や展示が実現できる見通しです。

新たな葛西臨海水族園(仮称)は、東京都江戸川区臨海町六丁目に整備されます。延床面積は約23,700㎡、建築面積は約12,800㎡で、水槽の総水量は約4,600トンに達します。構造は鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)で、地上2階・地下1階建ての本館を中心とした施設構成となります。
この新施設では、「海と接する機会を創出し、海と人とのつながりを通して海への理解を深める水族園」という理念のもと、海の美しさだけでなく、海の環境や文化に焦点を当てた展示を行う計画です。来館者が自らの暮らしと海との関係に気づき、海を守る意識を育てるような展示演出を導入する予定です。

本事業は、「PFI-BTO方式」を採用して進められています。PFIは、公共事業において民間の資金やノウハウを活用する手法であり、BTO方式とは、施設の建設後にその所有権が公共側に移転される仕組みを指します。これにより、民間事業者の専門的な技術や運営ノウハウを最大限に活かしながら、効率的で高品質な施設整備が実現されることが期待されています。
設計および建設に関するスケジュールは、まず2022年12月から2023年11月までが基本設計の期間にあてられ、その後2023年12月から2025年3月にかけて実施設計が行われました。また、建築関連の各種協議は2022年12月から2025年6月まで継続して実施される予定です。
実際の建設工事は2028年3月までの長期にわたり進められます。その後、2028年4月から9月にかけて開業準備が行われ、2028年9月の供用開始が予定されています。なお、事業契約は2048年3月まで続く見通しです。2025年6月現在では、現地において整地作業を中心とした準備工事が進められており、いよいよ本格的な建設フェーズへと移行しつつある状況です。

新たな葛西臨海水族園は、単なる「生物展示施設」ではなく、海洋環境の大切さや人と自然との関わりを実感できる“体験型学習施設”へと生まれ変わります。これにより、次世代に対しても海の豊かさと重要性を伝える教育的役割を果たしていくことが期待されています。
さらに、既存の水族園についても、新施設との連携によって活用を継続する方針です。これにより、施設単体ではなく、葛西臨海公園全体としての魅力がさらに高まり、地域全体のにぎわい創出や環境教育の拠点としての役割も強化される見込みです。東京都は今後も、持続可能な社会の実現に向けて、葛西臨海水族園を「海と人をつなぐ架け橋」として育てていく考えです。
最終更新日:2025年7月7日

