埼玉県久喜市では、JR宇都宮線と東武伊勢崎線が交わる久喜駅西口周辺において、新たなまちづくりが進められています。かつて市街地再開発事業により整備されたこのエリアは、事業完了から30年以上が経過し、施設の老朽化や交通の混雑、商業機能の衰退といった課題が顕在化しています。
近年では圏央道の整備や産業団地の発展により企業送迎バスが急増し、駅前広場や周辺道路における混雑が常態化していることから、交通環境の再構築が喫緊の課題となっています。こうした状況を踏まえ、久喜市は「久喜駅西口周辺まちづくり基本計画」を策定し、バスターミナルの整備を含む都市基盤の再編、そしてにぎわいと回遊性のある中心市街地の再生が目指されています。
久喜駅西口周辺まちづくりの概要
1.計画の位置づけ
JR宇都宮線と東武伊勢崎線が交わる久喜駅西口周辺で進む再整備。
市の玄関口として都市基盤の再構築を目指すまちづくり計画。
2.整備の背景
再開発から30年以上を経て老朽化や交通混雑が進行。
商業機能の衰退や土地利用の低下が課題となる現状。
3.交通環境の課題
企業送迎バスの集中による慢性的な渋滞の発生。
駅前空間の混雑緩和と安全な動線確保の必要性。
4.都市構造の再生
商業・居住・公共機能を融合させた都市構造への転換。
にぎわいと回遊性を備えたコンパクトシティの形成。
5.バスターミナル整備
駅前機能の再編を担う新バスターミナルの整備。
交通結節点としての利便性と快適性の向上。
6.持続可能な地域拠点
地域経済を支える商業・医療・福祉機能の集積。
安全・防災・景観を重視した暮らしやすいまちの実現。
7.将来の展望
市民と行政が協働して進める段階的な再生プロセス。
次世代へ継承される持続可能な都市拠点の創出。

久喜駅西口は、市の玄関口として高い交通利便性を誇り、多くの通勤・通学利用者や商業客が行き交うエリアです。しかし、近年では企業送迎バスの集中や路上駐車によって、駅前通りや県道沿いで交通渋滞が慢性化しています。また、商店街では後継者不足や空き店舗の増加が進み、かつてのにぎわいを失いつつあります。さらに、居住環境の老朽化や防災面の課題も指摘されており、都市機能全体の再構築が求められています。
こうした背景を受け、市は駅からおおむね300メートル圏内に位置する約2ヘクタールの範囲を対象に、土地の有効活用や交通機能の集約化を検討しています。この区域はA・B・Cの3ブロックに分けられ、それぞれに適した用途の再配置を行うことで、交通の円滑化と都市の活性化を同時に実現する計画です。バスターミナルの新設により、駅前の混雑を緩和し、歩行者にとっても快適で安全な環境を整えることが目指されています。

このまちづくり計画は、市全体の将来像を示す「総合振興計画」および「都市計画マスタープラン」との整合性を重視して進められています。総合振興計画では、「豊かな自然と調和し、便利で快適な住み心地のよいまち」を基本理念に掲げており、鉄道駅周辺の利便性を生かした集約型都市構造の形成を重要な柱としています。その中で久喜駅周辺は市の中心拠点と位置づけられ、交通結節機能の向上と、商業・業務・居住・行政など多様な都市機能の集約が求められています。
また、都市計画マスタープランにおいても、久喜駅西口は「商業と居住の再生地区」と定められており、老朽化した施設の更新や空地の有効活用を通じて、商業や文化、行政サービスが集まる拠点として再生を図る方針が示されています。このように、本計画は上位計画の理念を具体化するものとして、市の都市政策全体における中核的なプロジェクトと位置付けられています。

「久喜駅西口周辺まちづくり基本計画」では、交通の円滑化、にぎわいの創出、安全性と防災性の向上、そして景観形成の4つを基本方針としています。まず、交通面では、県道沿道における土地利用の見直しや、バス停の再配置などにより、混雑の緩和と動線の合理化を図ります。特に、バスの二重停車を防ぐための停留スペースの整理や、送迎車両の駐停車スペースの確保が重要な課題とされています。
にぎわいの創出に関しては、商店街通りを歩行者中心の空間に再編し、回遊性を高めることで、人が立ち寄りやすい環境を整えます。さらに、電線類の地中化や沿道景観の整備を進め、統一感のある美しいまちなみを形成することも検討されています。安全・防災面では、南北方向に新たな避難路を確保し、災害時の避難経路を確保するとともに、建物の不燃化や防災広場の整備も視野に入れています。これらを総合的に進めることで、安全で快適、かつ魅力的な駅前空間を再構築することが目指されています。

久喜駅西口の再整備に向けた動きは、市は交通量や土地利用の現状を把握するための調査を実施されているほか、令和3年には地元関係者への説明会が開催されました。翌令和4年には、商工会を中心とする検討会において、バスターミナルの必要性や駅周辺の交通環境の改善方策などが議題として取り上げられました。
その後、区域選定に関する説明会とアンケートが実施され、9割を超える賛同を得たことで、現在の検討区域が正式に設定されました。令和5年10月には「久喜駅西口周辺まちづくり協議会」が設立され、関係者による協議が本格的にスタートしました。これまでに6回の協議会が開催され、土地利用方針や将来ビジョンについて議論が重ねられています。さらに、先進的な再開発事例を視察し、実現性の高い計画づくりが進められています。

将来構想では、検討区域を3つのブロックに分け、それぞれの特性に応じた機能を配置することが想定されています。Aブロックには、スーパーマーケットや日用品店舗など、地域のにぎわいを生み出す商業施設を配置し、日常生活の利便性を高める計画です。Bブロックには、病院や薬局、子育て支援施設など、地域医療や福祉を担う機能が想定されており、住民の安心を支える拠点となることが期待されています。Cブロックでは、良好な住環境を備えた新しい住宅地を整備し、居住人口の維持・増加を図ります。
また、駅前の交通環境を大きく改善するため、1時間あたり約68台のバスが発着できる大規模バスターミナルの整備が計画されています。これにより、鉄道とバスの乗り継ぎがスムーズになるほか、南北方向の避難路も確保され、災害時の安全性が高まる見通しです。これらの機能を総合的に組み合わせることで、商業・医療・居住が共存するコンパクトな都市構造を実現し、持続可能なまちづくりを推進していく方針です。事業手法としては、市街地再開発事業の適用が想定されています。

今後は、権利者の合意形成を基礎としながら、まずは「権利者の会」の設立を目指しているとのことです。そのうえで、民間の開発事業者を選定し、「準備組合」の立ち上げ、さらには都市計画決定や再開発組合の設立へと段階的に進めていく予定です。再開発の具体化には多くの手続きと調整が必要ですが、市は勉強会の開催や意向確認を丁寧に行い、地元住民や商業者との協働を重視する方針を示しています。

説明会では、交通安全対策への要望や、再開発後の賃料負担に対する不安なども寄せられていますが、市はそうした意見を踏まえて柔軟な検討を進めています。将来的には、久喜駅西口が鉄道とバスの両方の玄関口として再整備され、地域全体の回遊性と利便性が向上することが期待されます。久喜市は、駅前を中心に人が集い、働き、暮らすことのできる持続可能なまちを次世代へ継承することを目指し、段階的に具体化を進めていく考えです。
最終更新日:2025年11月3日
