東京都交通局は2025年10月15日、都営大江戸線の延伸(光が丘〜大泉学園町)に関する最新の検討状況を正式に公表しました。延伸計画は、国の交通政策審議会答申第198号(2016年)において「地域の発展と生活利便性の向上に資するプロジェクト」として位置づけられ、都区部北西部と都心部をより緊密に結ぶ新たな交通ネットワークの構築を目指しています。
この延伸は、これまで鉄道空白地帯となっていた練馬区北西部の交通アクセスを根本的に改善することを目的とし、地域住民や企業の強い期待を集めています。2023年3月には、東京都が庁内プロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、交通局・財務局・都市整備局・建設局が横断的に連携。練馬区とともに、旅客需要の創出、コストの低減、財源の確保という3つの観点から、実現性を高めるための検討を重ねてきました。
今回の報告によると、概算事業費は約1,600億円、1日あたりの新規旅客需要は約6万人と試算。費用便益比(B/C)は1を上回り、累積収支も開業から40年以内に黒字化する見通しが示されました。今後は、都と練馬区、関係機関との協議を経て、都市計画決定や環境影響評価などの法的手続きを段階的に進めていく方針です。
都営大江戸線の光が丘〜大泉学園町間延伸計画の概要
1.延伸計画の概要
都営大江戸線の光が丘〜大泉学園町間(約4km)を延伸し、都区部北西部と都心部を直結させる交通基盤整備の推進。
2.国の位置づけと意義
交通政策審議会答申第198号で「地域の発展と利便性向上に資する路線」として示された公共交通ネットワークの強化。
3.地域交通の改善目標
鉄道空白地帯である練馬区北西部の交通アクセスを抜本的に改善し、地域の移動利便性を高める都市交通の再構築。
4.検討体制の整備
東京都が2023年3月に庁内プロジェクトチームを設立し、関係局と練馬区が連携して事業性向上策を検討する体制の構築。
5.試算結果と経済性
概算事業費約1,600億円、新規旅客需要約6万人/日を見込み、費用便益比1以上を確保する経済的妥当性の確認。
6.財源確保と課題整理
旅客需要の創出、コスト低減、財源確保の三要素を中心に、持続可能な整備スキームを模索する財政的基盤の整備。
7.今後の展望と方向性
関係機関との協議を経て、都市計画決定や環境影響評価へ進み、地域と一体となった段階的事業化を目指す今後の展開。

大江戸線の延伸は、都営地下鉄の中でも特に地域的意義の高いプロジェクトとして位置づけられています。国の交通政策審議会答申第198号(平成28年)では、「都区部北西部と都心部を結ぶ交通利便性の向上」「練馬区北西部地域のまちづくり支援」「環境負荷の低い交通体系の実現」を目的に掲げられました。
しかし、当初は事業費の高さや採算性の不透明さから、早期着手は難しいとされていました。
このため東京都は2023年3月、関係局が連携する庁内プロジェクトチームを設立。交通局が中心となり、費用対効果の改善策や需要の拡大方策を精査してきました。特に、延伸区間周辺の再開発や住宅整備など、地域の将来的な人口増加を踏まえた需要想定を行うことで、より現実的な事業性評価を試みています。また、練馬区との協働体制のもと、まちづくりと鉄道整備を一体で進める「地域連携型の都市交通整備」を指針として掲げています。

延伸区間は、既存の終点である光が丘駅から北西方向に約4km延び、練馬区の北端部に位置する大泉学園町エリアまでを結ぶ計画です。途中には3つの新駅が設置される予定で、仮称として「土支田駅」「大泉町駅」「大泉学園町駅」が挙げられています。
土支田駅は土支田通りの東側に設置され、住宅密集地に近く、バス路線との乗り継ぎ拠点となる想定です。大泉町駅は外環自動車道の交差部近くに設けられ、交通結節点としての機能が期待されています。そして終点の大泉学園町駅は大泉学園通り東側に位置し、周辺では商業施設や住宅の整備が検討されています。
これら3駅の整備により、鉄道空白地帯であった練馬区北西部の移動利便性が大きく向上する見込みです。
加えて、車両運用面では既存の高松車庫を改修し、延伸に対応した検修機能を強化する方針です。最終駅となる大泉学園町駅には折り返し運転用の引上げ線を設ける計画で、運行の効率化とダイヤ安定化が図られます。駅間距離や配置についても、地形条件や道路網、地域開発計画との整合を重視して設計が進められています。

東京都交通局が実施した事業性試算では、概算事業費を約1,600億円(税抜)と設定。旅客需要は、延伸によって新たに1日約6万人の利用者増を見込んでいます。この数値は、既存の大江戸線利用者の増加分も含めた全体的な需要拡大を反映しています。
費用便益比(B/C)は1を上回ると算出され、社会的費用を考慮しても一定の経済合理性を確保できる見通しが示されました。累積損益についても、開業から40年以内には黒字転換する見通しで、長期的には持続可能な鉄道経営が可能とされています。
事業スキームとしては、国の「地下高速鉄道整備事業費補助制度」の活用を前提に、都と練馬区、鉄道事業者(東京都交通局)の3者で費用を分担する形が想定されています。
ただし、今回の試算はあくまで一定の仮定条件に基づくものであり、将来の経済環境や人口動態、建設費高騰の影響により数値が変動する可能性もあります。そのため、東京都は今後、段階的な見直しを行いながら、より精緻な事業スキームの検討を進める方針です。

延伸の実現に向けたプロセスは、複数の段階を経て進行します。まずは今回の事業性検証結果を踏まえ、課題整理と改善策の精査を続ける「検証フェーズ」が当面の中心となります。その後、事業化の条件が整えば、都と練馬区、関係機関との「協議・調整段階」に移行し、費用負担や整備スケジュールの基本的枠組みを定めていく計画です。
協議が整い次第、都市計画決定、環境影響評価、鉄道事業許可などの法的手続きを順次進めることになります。これらのプロセスは通常数年を要するため、延伸開業にはまだ時間を要する見通しですが、今回の公表により事業化へ向けた第一歩が明確に示されたといえます。
東京都は今後、地域住民や関係自治体との意見交換を重ねながら、計画の透明性を高める姿勢を強調しています。


今回の報告で示された事業性改善の方向性は一定の成果を示したものの、実際の事業化には複数の課題が残されています。主な課題として、①練馬区における駅周辺まちづくり方針の具体化、②都区間での費用負担の整理、③建設コスト上昇などの経済環境変化への対応、の3点が挙げられます。

特に、まちづくりと鉄道整備を一体的に進めるためには、駅前広場やアクセス道路の整備、公共交通との接続改善など、区と都の緊密な連携が不可欠です。東京都と練馬区は今後、駅周辺における商業・住宅開発や地域拠点づくりを推進し、鉄道利用を促進する都市構造への転換を目指します。
大江戸線の延伸は、単なる交通インフラ整備にとどまらず、練馬区北西部の都市再生や人口定住促進、防災力の強化にも寄与する重要な施策です。「地下鉄空白地帯の解消」と「都心アクセスの改善」を両立させるこのプロジェクトは、今後の東京の都市交通政策の方向性を象徴する取り組みとして注目されています。
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最終更新日:2025年10月18日

