遂に公表された第20版「Demographia World Urban Areas (2025年8月)」によると、世界最大の人口を抱える大都市圏の座が、長年不動とされた東京―横浜大都市圏(人口約3,732万人)から、中国の広州―深セン大都市圏(約6,956万人)へと交代しました。同調査は、世界の都市研究の中でも特に影響力のある報告書で、航空写真・衛星データを用いて「実際に連続した市街地(Built-up Urban Areas)」を統一基準で測定する唯一の国際調査です。行政区や政治的境界ではなく、実際に人々の生活圏がどこまで連続しているかを示す点に特徴があります。
今回の第20版では、広州―深センを中心とする珠江デルタ都市圏(Pearl River Delta Urban Region)が、経済・交通・居住の三位一体的な融合により単一の都市圏として再定義され、世界最大の都市圏として認定されました。これは、21世紀に入り急速に都市化とインフラ整備を進めてきた中国が、実質的な「都市統合国家」へ移行した象徴的な結果といえます。
→Demographia World Urban Areas 20th Edition(2025)
→国土交通省 スーパー・メガリージョンの形成
Demographia World Urban Areasの概要
1.世界最大都市圏の交代
広州―深セン大都市圏が東京―横浜を抜き、世界首位となった事実。
中国の都市統合と急速な都市化の象徴。
2.Demographia調査の特徴
行政区ではなく、連続した市街地を基準とする国際的都市評価。
衛星画像を活用した都市圏実態の可視化。
3.珠江デルタ都市圏の拡大
広州・深セン・仏山などが一体化した巨大都市圏の形成。
経済・交通・居住の融合による都市連結の進展。
4.中国の都市統合戦略
国家主導で進む都市群(City Cluster)政策の成果。
広域交通と産業連携によるメガリージョン化の加速。
5.東京―横浜圏の位置づけ
長年世界最大だった都市圏が第3位へ後退。
成熟社会における高密度都市モデルの継続。
6.世界的都市化の潮流
メガシティの急増と連続都市域の拡大。
経済効率と環境課題を併せ持つ都市成長の現実。
7.日本の今後の展望
東京・名古屋・大阪の連携による広域メガリージョン構想。
多核ネットワーク型都市国家への転換。

今回の発表で最大のトピックは、中国・華南地域の広州―深セン大都市圏が首位に立ったことです。この地域は、かつて広州・深セン・東莞・仏山などの複数都市に分かれていましたが、近年の急速な都市化と交通インフラの整備によって、市街地がほぼ切れ目なくつながる“超連続都市”を形成しています。人口は約6,956万人に達し、世界第2位の都市圏である上海―常州圏(約4,512万人)を大きく上回りました。
経済面では、中国最大の製造・輸出拠点である珠江デルタ地域が中心であり、世界中の電子機器や自動車部品を供給するグローバル生産拠点として機能しています。深センにはハイテク企業群、広州には商業・金融拠点、東莞には製造業が集中し、分業と連携が高度に進んだ“アジア型メガ・アーバン・リージョン”が形成されています。

第2位には、中国東部の上海―常州大都市圏(人口約4,512万人)がランクインしました。この地域は長江デルタの中核であり、上海を中心に蘇州・無錫・常州などが帯状に都市化。鉄道・道路・産業構造の一体化が進み、「世界の工場」から「世界の技術集積地」へと進化しています。上海が金融・国際貿易の中枢、蘇州がハイテク製造、無錫・常州が機械・材料産業を担い、珠江デルタに並ぶもう一つの「国家都市群」として位置づけられています。
このように、中国では複数の巨大都市圏が相互補完的に発展しており、「一国多極型メガシティ構造」が形成されつつあります。これは従来の単一巨大都市(モノセントリック型)から、多核・連続型(ポリセントリック型)への移行を象徴しています。

一方、日本の東京―横浜大都市圏は、2025年版で第3位(人口約3,732万人)となりました。1980年代から長年にわたり「世界最大の都市圏」として知られてきた同地域は、経済的・社会的成熟を経て、現在は安定期に入っています。人口減少や少子高齢化が進む中でも、依然として先進国最大の都市圏であり、世界最高水準の都市機能を維持しています。報告書では、東京圏の高密度公共交通網、生活利便性、そして高い都市持続性が国際的に評価されています。
また、ソウル―仁川(人口約2,382万人)やニューヨーク―ニューアーク(約2,086万人)など、他の先進国の都市圏と比べても、都市構造の効率性と経済規模のバランスが極めて高いことが特徴です。


Demographiaの調査では、「連続した市街地(urban footprint)」を用いた実測が行われます。そのため、近接する都市同士が物理的に連結し、通勤圏・商業圏が重なり合っている場合は、1つの都市圏として統合されます。2025年版では、人口500万人を超える都市圏は104、1,000万人を超えるメガシティは42都市に達し、20年前の約2倍に増加しました。
特に中国、インド、ナイジェリアなどの新興国では、農村から都市への人口移動が続き、世界の都市人口はすでに全人類の57%を超過。2050年には70%に達すると見込まれています。
都市の広域化は交通・エネルギー・環境に新たな課題をもたらす一方で、経済効率とイノベーションの集中を促進する側面もあります。


中国政府は「都市群(City Cluster)」政策を国家戦略として進めており、珠江デルタ・長江デルタ・京津冀(北京―天津―河北)の三大都市群を軸に、世界規模のメガリージョン形成を目指しています。
広域鉄道網や高速道路、港湾、空港、デジタルインフラが連続的に整備され、都市間移動が高速化。これにより、例えば広州から香港まで約1時間、深センから仏山までは40分以内で移動できるなど、実質的に単一都市圏として機能しています。
このような政策主導の都市統合は、従来の「自然発生的都市成長」とは異なり、国家が都市の構造そのものをデザインするモデルといえます。今回のDemographiaの結果は、その現実を反映し、都市研究の新しい基準を提示したと評価されています。


日本でも近年、「スーパー・メガリージョン構想」が再び脚光を浴びています。国土交通省や有識者会議では、東京・名古屋・大阪の三大都市圏を高速鉄道で一体化し、人口約7,000万人の巨大経済圏を形成することが掲げられています。
リニア中央新幹線の整備はその中核であり、開業後には東京―名古屋間が約40分、東京―大阪間が約67分で結ばれる見込みです。


この距離感は、ヨーロッパの「パリ―ロンドン」や「ベルリン―ミュンヘン」間を超えるスピードであり、世界でも例を見ない“日帰り型メガリージョン”の誕生につながります。また、災害対応・エネルギー分散・人材交流などの観点からも、複数の大都市がネットワーク型で機能することが、新しい国土構造の基盤になると考えられています。

スーパー・メガリージョン構想の最大の特徴は、「多核連携による経済シナジー」です。東京は金融・情報サービスの中心、名古屋は自動車・航空など製造業の中枢、関西は大学・研究機関・文化産業の集積地と、それぞれ異なる強みを持っています。
これらが高速鉄道とデジタルインフラで結ばれることで、経済活動・人材流動・イノベーション創出が相乗的に加速します。

さらに、世界的な視点から見ると、東京―大阪軸の7,000万人圏は、ニューヨーク・ボストン・ワシントンD.C.を結ぶ「アメリカ北東メガロポリス」や、中国の珠江デルタと並ぶ規模となります。
この構想が実現すれば、日本は単一都市ではなく「広域連携型の超都市国家」として、再びアジアの中で存在感を高めることが期待されます。


今回のDemographiaの結果は、単なる人口順位の変動を示すだけではありません。それは、都市のあり方が「境界の内側」から「結びつきの強さ」へと変化していることを象徴しています。東京―横浜圏が単独で首位を譲ったとしても、東京・名古屋・大阪を一体とした「スーパー・メガリージョン」視点では、依然として世界最大級の都市圏(人口約7,000万人、GDP換算で世界第1位クラス)であることに変わりありません。
今後、日本の都市政策は、行政区分を超えた都市圏連携、広域交通の強化、データ共有、環境共生型のまちづくりへと進化していくことが求められます。「都市の境界」ではなく、「生活と経済のネットワーク」が都市の本質を形づくる時代。世界の都市競争はすでにそのステージに移っており、日本もまた、“ポスト東京一強時代”の新しい都市像を描く局面に入っています。


大都市圏人口規模ランキング2025(世界上位25都市圏)
順位:大都市圏名/都市圏人口/都市圏面積
1位:広州–深圳、広東省(中国)/6,956.2万人/10,635k㎡
2位:上海–常州、上海・蘇州・鎮江(中国)/4,511.5万人/9,731k㎡
3位:東京–横浜(日本)/3,732.5万人/8,775k㎡
4位:ジャカルタ(インドネシア)/3,687.7万人/3,546k㎡
5位:デリー、デリー・ウッタルプラデシュ・ハリヤナ(インド)/3,322.4万人/2,344k㎡
6位:ムンバイ、マハーラーシュトラ(インド)/2,623.7万人/1,067k㎡
7位:マニラ(フィリピン)/2,552.1万人/1,911k㎡
8位:ダッカ(バングラデシュ)/2,530.5万人/1,083k㎡
9位:ソウル–仁川(韓国)/2,382.5万人/2,769k㎡
10位:カイロ(エジプト)/2,268.4万人/2,696k㎡
11位:北京、北京・河北(中国)/2,236.3万人/4,284k㎡
12位:サンパウロ(ブラジル)/2,174.7万人/3,649k㎡
13位:カラチ(パキスタン)/2,125.8万人/1,124k㎡
14位:ニューヨーク、ニューヨーク–ニュージャージー–コネチカット(アメリカ)/2,089.2万人/11,344k㎡
15位:コルカタ、西ベンガル(インド)/2,032.7万人/1,352k㎡
16位:バンコク(タイ)/2,028.4万人/3,199k㎡
17位:メキシコシティ(メキシコ)/1,894.2万人/2,530k㎡
18位:モスクワ(ロシア)/1,850.9万人/6,643k㎡
19位:バンガロール、カルナータカ(インド)/1,621.6万人/1,743k㎡
20位:ホーチミン市(ベトナム)/1,602.4万人/2,274k㎡
21位:ブエノスアイレス(アルゼンチン)/1,593.3万人/3,437k㎡
22位:ロサンゼルス、カリフォルニア(アメリカ)/1,558.2万人/6,918k㎡
23位:ラゴス(ナイジェリア)/1,528.3万人/2,585k㎡
24位:ヨハネスブルグ–プレトリア(南アフリカ)/1,520.6万人/4,040k㎡
25位:大阪–神戸–京都(日本)/1,499.8万人/3,020k㎡

最終更新日:2025年10月18日

