国際的な建築設計事務所であるビャルケインゲルスグループ(BIG)は、ドバイの象徴的な場所である「ジュベル・アリ競馬場」を中心とする都市再開発マスタープランを発表しました。このプロジェクトは、UAE拠点の民間投資会社A.R.M.ホールディングとの共同開発によるもので、ドバイ南西部に位置する約5平方キロメートルの敷地を対象に、住宅、商業、文化、自然、交通を一体化させた新たな複合都市拠点の創出を目指します。
再開発の核となるのは、緑豊かな中央パークを中心とした「歩いて暮らせる都市」であり、これはドバイ2040都市マスタープランが掲げる“持続可能な成長”や“地域密着型の暮らし”というビジョンを、実際の都市空間に落とし込んだものです。全体的なウェルビーイング、持続可能性、文化とアイデンティティ、イノベーションに焦点を当てた17の測定可能なKPIによって導かれ、本プロジェクトは始動します。
ジュベル・アリ競馬場跡地再開発の概要
1. プロジェクトの概要
ドバイ南西部の旧ジュベル・アリ競馬場跡地(約5平方km)を対象に、BIGとA.R.M.ホールディングが主導する大規模な複合都市開発プロジェクト。住宅、商業、教育、文化、公共空間などを統合した「歩いて暮らせる都市」を構想。
2. 中心に据えられた公共パーク
開発の中心には「グリーンスパイン」となる広大な中央公園を設置。都市全体を貫く緑地軸が各街区を視覚的・機能的に結び、自然との共生と開放的な空間体験を提供。
3. 歩行重視の都市構造
8つのウォーカブル・ネイバーフッドを形成し、すべての主要施設に徒歩または自転車で5分以内にアクセス可能。車中心の都市構造から脱却し、人間中心のスローモビリティと公共交通を優先。
4. 持続可能性とウェルビーイング
「都市全体がジム」というコンセプトのもと、身体活動や健康促進が自然に取り入れられる都市設計。日差し対策やシェード空間、自動運転シャトルの導入など、環境負荷軽減と快適性を両立。
5. 歴史・文化の継承
ジュベル・アリ競馬場という歴史的施設の存在を尊重し、文化的文脈を活かした現代的な都市再生を実施。伝統的な価値観と都市の未来を融合させるアプローチ。
6. 空間デザインの工夫
各街区には視界の抜けや集いの場が意図的に配置され、心理的な開放感と人々の交流を促進。自然と都市、人と人とのつながりを感じられる「生きた風景」を形成。
7. 国際的なチーム体制
BIGを中心に、Systematica、Atelier Ten、Dezigntechnicなど国際的な専門家が参画。環境、交通、ランドスケープなど多分野の知見を結集し、総合的な都市設計を実現。

ジュベル・アリ競馬場跡地の再開発計画は、1990年から30年以上にわたってドバイの競馬文化を象徴してきた「ジュベル・アリ競馬場」の敷地を、その歴史を尊重しながら都市機能へと転換することを目的としています。敷地はエミレーツ・ゴルフクラブやグリーンズ地区に近接し、都市拡張が進むドバイの成長軸の一部と位置づけられています。
マスタープランでは、8つの徒歩圏内の街区(ウォーカブル・ネイバーフッド)が整備され、それぞれが機能とデザインの面で特色を持ちながら、中央の公園を共有する形でつながります。プロジェクトの初期段階では住宅や教育施設、ホスピタリティ施設、公共インフラの整備が段階的に行われ、2026年初頭の着工が予定されています。

このプロジェクトの象徴となるのが、敷地中央に広がる広大なパブリックパークです。この公園は、都市全体を貫く「グリーンスパイン(緑の背骨)」として、街区と街区を視覚的・機能的につなぎます。
建築家ビャルケ・インゲルスが「緑の海に浮かぶ都市の群島」と表現するように、それぞれの街区は独立性を保ちながらも互いに連続し、あたかも一つの有機的な都市生態系を形成します。この構成により、都市空間における閉塞感をなくし、居住者や訪問者に開放感と一体感をもたらします。

BIGが掲げる「都市全体をジムのように機能させる」という理念は、持続可能な都市づくりの革新的アプローチです。すべての公共施設、教育機関、商業エリア、医療・福祉サービス、緑地は、徒歩もしくは自転車で5分以内にアクセスできるよう設計されており、「20分都市」の概念をさらに先鋭化した形になっています。
道路は自動車優先ではなく、人々の移動と交流を促す「ロースピード」設計が施され、共有空間には日差しを避けられるシェード(屋根付きの広場)や植栽が整備されます。また、自動運転シャトルバスの導入により、敷地内外の公共交通ネットワークとの接続性も確保されます。


本プロジェクトの大きな特徴の一つが、「エミラティ文化の現代的継承」を前提としている点です。競馬場という歴史的施設をあえて保存し、再利用することで、土地の記憶を次世代へと引き継ぐことが意図されています。
都市が“生きた風景”となることを目指し、街区内には広場や歩行者空間が点在し、人々の自然な集まりやふれあいが促進されます。日常生活の中に交流の機会を意図的に設けることで、物理的な利便性だけでなく、感情的・社会的な充足感の向上にも寄与します。設計ではまた、建物の間に意図的な“抜け”を設けることで、公園への視界が確保され、心理的な開放感と自然とのつながりが感じられる空間演出も施されています。
本プロジェクトの実施にあたっては、BIGの他にSystematica(都市交通計画)、Atelier Ten(環境設計)、Dezigntechnic(ランドスケープ設計)など、分野横断的な国際的チームが結集しています。プロジェクトのパートナーインチャージにはビャルケ・インゲルスとジョアン・アルバカーキ、マネージャーにはホセ・アントニオ・エスピノサが名を連ね、世界をリードする建築・都市設計の経験と知識が本開発に注がれています。
最終更新日:2025年5月21日