兵庫県は、老朽化が進む県庁舎の再整備に向け、「新庁舎等整備プロジェクト基本構想(案)」を公表しました。阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、防災拠点としての耐震安全性を確保するとともに、南海トラフ地震などの大規模災害に備える体制強化が求められています。また、コロナ禍を経た働き方の変化や建設費の高騰など、社会情勢の変化に対応しつつ、元町駅北側(モトキタ)地域におけるにぎわい創出や県民交流機能の再構築を目指しています。
今回の基本構想案では、「安全・共創・交流の拠点 ~県民の未来を支える県庁舎へ~」を理念として掲げ、県民とともに未来志向の行政拠点を築く方針を示しました。今後は専門家や地元関係者、県議会での議論を踏まえ、より具体的な整備計画が策定される見通しです。
兵庫県庁舎再編の概要
1.老朽化と再整備の必要性
昭和40年代建設の庁舎群における老朽化と耐震性不足の顕在化。災害時の行政機能維持に向けた再整備の緊急性。
2.阪神・淡路大震災の教訓と防災拠点化
震災経験を踏まえた防災拠点機能の再構築。南海トラフ地震など広域災害を想定した耐震安全性の確保。
3.社会情勢の変化への対応
コロナ禍を契機とした働き方改革の進展。デジタル化・テレワーク対応と建設費高騰への柔軟な対応方針。
4.モトキタ地域の再生とにぎわい創出
元町駅北側エリアの都市再生と回遊性向上。庁舎再編を核とした神戸都心部の活性化。
5.県民交流機能の再構築
旧県民会館の閉館を受けた県民交流拠点の再整備。県民・企業・団体が集う開かれた庁舎の創出。
6.基本理念と目指す方向性
「安全・共創・交流の拠点 ~県民の未来を支える県庁舎へ~」を掲げた新たな県庁舎像。防災対応・働き方改革・県民協働の三本柱。
7.今後の検討と展望
専門家・県議会・地元関係者との協議による基本構想の具体化。整備位置・規模・機能配置の検討を経た段階的事業化と長期的ビジョンの推進。

兵庫県庁舎は、昭和40年代に建設された1号館、2号館、議場棟を中心に構成されています。しかし建設から半世紀以上が経過し、建物の老朽化と耐震性の不足が顕著となっています。阪神・淡路大震災の際には大きな被害を免れたものの、震災後に実施された補強工事によって確保された耐震性能は最低限の水準にとどまっており、近年の診断では防災拠点として求められる性能を満たしていないことが判明しました。
さらに、庁舎周辺には築50年以上が経過した旧兵庫県民会館や兵庫県公館などの県有施設が点在しており、これらの老朽化や活用方針も含めた再編が必要とされています。平成元年度に策定された「県庁舎等再整備基本構想」では現地建替と民間複合施設の整備が想定されていましたが、社会経済情勢の変化や建設コストの上昇、そしてコロナ禍の影響により、令和4年には一時的に凍結されました。その後、能登半島地震をはじめとする近年の大規模災害の発生を受け、行政の防災体制強化が改めて求められる中で、再び庁舎のあり方が再検討されることとなりました。

現庁舎群のうち、1号館・2号館・議場棟はいずれも旧耐震基準で建設された建物であり、構造耐震指標(Is値)は0.3前後にとどまっています。大地震が発生した場合には倒壊や重大な損傷の危険性がある水準であり、防災拠点としての機能維持は困難とされています。特に議場棟については時刻歴応答解析による層間変形角の解析により、直下型地震時に倒壊の恐れがあると判断され、令和5年度から使用が停止されました。
また、旧県民会館も築57年を経過しており、耐震性の不足が顕著であることから、令和7年3月末をもって閉館しています。これにより、県民が集う文化・交流拠点の一時的な喪失という課題も生じています。
さらに、兵庫県公館や1号館前芝生広場、県民オアシスなど、立地条件に恵まれながらも十分に活用されていない公共空間が多く存在し、これらの再生を通じた都市空間の魅力向上も求められています。加えて、元町駅を挟んだ南北の人の流れを活性化させることや、地域資源を一体的に活用する都市設計上の工夫も不可欠とされています。


新庁舎は、「安全・共創・交流の拠点」として、防災拠点機能の強化と県政の中枢機能の再構築を目指すものです。まず、最重要課題である耐震性能の向上により、災害時にも業務継続が可能な構造を確保します。さらに、ICTの活用を前提とした柔軟なオフィス空間を導入し、テレワークやフリーアドレス化など新しい働き方を支える執務環境を整備します。
一方で、県民との交流機能も重視し、旧県民会館の役割を継承した新たな県民交流施設を整備する方針です。ここでは県民や企業、NPOなど多様な主体が集い、地域課題の解決や文化活動を通じて共創する空間の形成が目指されています。
また、周辺地域においては、モトキタエリアのにぎわいづくりを推進し、余剰地の民間活用や回遊性の高い歩行者空間の整備など、行政施設と都市空間が一体的に機能する新しい都心像の構築を図ります。これらの取り組みを通じて、新庁舎は単なる行政施設ではなく、県民の安心と活力を支える「兵庫の顔」としての役割を担うことになります。

兵庫県は現在、専門家や学識経験者、県議会関係者などによる検討会を通じて、新庁舎および周辺施設の基本構想をさらに具体化しています。今後は、庁舎の建設位置や規模、機能配置、県民交流施設の具体的なあり方、そしてモトキタ地域全体の土地利用方針などを整理した基本計画の策定が進められる予定です。
再整備事業は単なる建物の建て替えにとどまらず、今後70年から100年を見据えた神戸都心の再構築プロジェクトと位置づけられています。県は、防災・減災の視点を基盤としながら、都市の魅力と行政機能の両立を目指す姿勢を明確にしています。
最終的には「安全で開かれた県庁舎」と「県民が共に創り、集う拠点」という二つの目標を兼ね備えた新しい行政の拠点が誕生する見通しです。兵庫県は、時代の変化に柔軟に対応しながら、県民生活と地域社会を支える持続可能な県庁舎づくりを進めていく方針を示しています。
最終更新日:2025年10月22日

