奈良県と奈良市、近畿日本鉄道が協議を進める近鉄奈良線・京都線・橿原線「大和西大寺」駅の高架化構想は、慢性的な交通渋滞や「開かずの踏切」問題の解消を目的とし、地域交通の利便性・安全性向上、さらには南北に分断された市街地の一体化を目指す大規模な立体交差プロジェクトです。
計画は、駅西側の踏切除却と駅構造の立体化に加え、平城宮跡内を横断する近鉄奈良線の移設も含まれており、将来的には駅周辺の道路整備を含めた地域全体のまちづくりと一体化した開発の中核を担うと期待されています。現在は協議の停滞も見られますが、2025年度には交通シミュレーション調査を実施し、効果検証を進める方針とされています。
→奈良県 大和西大寺駅の高架化について
→日本経済新聞 平城宮跡貫く近鉄奈良線移設へ 2060年度完成目指す
大和西大寺駅周辺高架化計画の概要
- 大和西大寺駅周辺の交通課題
駅周辺では8か所の「開かずの踏切」が通行を妨げ、
ピーク時には遮断時間が40分を超えるなど深刻な状況にある。 - 高架化・移設に向けたこれまでの取り組み
2021年に県・市・近鉄が踏切改良計画を策定し、国に提出。
以降は協議が続いたが、市の意向で現在は停滞している。 - 奈良県の対応と交通シミュレーション調査
奈良県は2025年度、約2000万円をかけて交通調査を実施予定。
高架化の効果やまちづくりへの影響を科学的に検証する方針。 - 協議の停滞と「最重点要望」からの除外
市が協議再開に応じないため、県は進展を図れず、
2025年度の国への「最重点要望」から本件を除外する見通し。 - 高架化がもたらす効果と今後のまちづくり
高架化により踏切が解消され、通行の安全性・快適性が向上。
再開発と連携し、南北一体のまちづくりが可能になる。 - 他都市との比較と必要性の強調
同規模駅では高架化が進む中、大和西大寺駅は整備が遅れ気味。
県は波及効果を重視し、引き続き合意形成を目指している。 - 近鉄奈良線移設と新駅「(仮称)朱雀大路駅」の設置計画
線路を平城宮跡南側に移し、地下化・新駅設置を計画。
2041年度着工、2060年度完成予定で、事業費は約2000億円。

大和西大寺駅は、奈良市の交通の要所として重要な役割を担う一方、駅西側に集中する4か所の踏切ではピーク時に40分以上も遮断される「開かずの踏切」が存在し、長年にわたって自動車・歩行者・自転車いずれの交通にも深刻な影響を与えてきました。このような踏切の存在は、まちの南北分断を生み、まちづくりの障害ともなっています。
国土交通省は2017~2018年度にかけて、同駅周辺の計8か所の踏切を「改良すべき踏切道」に指定。奈良県、奈良市、近鉄の3者は2021年に高架化と線路移設を含む「踏切改良計画」を国に提出し、渋滞解消と都市構造の再編に向けた本格的な取り組みが始まりました。

2023年7月と11月には県・市・近鉄の3者による部長級の協議会が開催され、高架化単独案と線路移設を伴う案の双方を比較検討する方針で合意がなされました。しかしその後、市の「協議開催は時期尚早」との意向により、第3回協議会は開催されていません。県は2025年度政府要望から同事業を「最重点要望」から外す意向を示すなど、協議は足踏み状態にあります。
このような中、奈良県は2025年度に約2,000万円を投じ、交通シミュレーション調査を実施。車両の流れや高架化による影響を定量的に把握し、事業の効果と必要性を再検証することで、議論の再活性化を狙っています。

現在の大和西大寺駅は、3面5線のホームで、乗降客数は42,850人/日となっています。大和西大寺駅の高架化は、単に鉄道を高架にするだけでなく、周辺道路の整備や都市空間の再構築を含めた広域的なまちづくりの起点として位置付けられています。踏切が除却されることで、南北の人流・物流がスムーズになり、高齢者や子育て世帯を含むすべての市民にとって暮らしやすい都市環境の形成が可能になります。
また、リニア中央新幹線の開通を見据え、大和西大寺駅は奈良県内の広域交通ネットワークの中心拠点となるポテンシャルを有しており、鉄道と道路の立体交差化は将来の都市基盤整備の礎となると期待されます。実際に、関西圏の近郊主要駅(阪神西宮駅や京阪寝屋川市駅など)では同様の高架化が既に完了しており、都市間競争における整備の遅れも懸念されます。
近鉄奈良線移設と新駅「(仮称)朱雀大路駅」の設置計画

大和西大寺駅西側の高架化と並行して、平城宮跡を横断する近鉄奈良線の移設も計画されています。移設案では、朱雀門南側を東西に走る大宮通りを新たなルートとし、地上と地下を組み合わせた線形で計画が進められています。この移設に伴い、近鉄奈良線には新駅「(仮称)朱雀大路駅」が設置される予定です。
この駅は、世界遺産である平城宮跡との調和や観光振興の観点からも注目されており、新たな交通結節点としての機能が期待されます。なお、移設計画全体の事業費は約2,000億円と見積もられており、2041年度の着工、2060年度の完成を目指しています。
最終更新日:2025年6月1日